福富太郎

福富太郎：戦後を駆け抜けた実業家と稀代の絵画蒐集家

福富太郎（ふくとみ たろう、1931年10月6日 - 2018年5月29日）は、20世紀後半の日本を代表する実業家であり、熱心な絵画蒐集家でした。東京都品川区出身の中村勇志智（なかむら ゆうしち）を本名とし、数々の事業を展開し成功を収めた一方、多趣味で知られた人物です。

戦後から銀座の夜へ

太郎氏の生い立ちは決して恵まれたものではありませんでした。東京府立園芸学校（現：東京都立園芸高等学校）在学中は、過酷な生活を強いられ、空襲で家を失うなど、厳しい時代を生き抜きました。敗戦後の混乱期には、ヤミ市でイモ飴を売るなどして生計を立て、1947年に同校を中退。その後、銀座のティールームや中華料理店で働き、水商売の世界に足を踏み入れます。

1949年、新宿のキャバレー「新宿処女林」でボーイとして働き始めます。本名の勇志智ではボーイという職種にはふさわしくないとして、勇吉と名乗り、喜劇俳優グルーチョ・マルクスを模倣したヒゲをトレードマークにしました。勤勉さで知られ、わずか2年で支配人に抜擢、名前も近衛千代麿と改名します。この頃より絵画収集を始め、鏑木清方の作品を最初に購入しました。しかしその後、幾つかの店を辞めることになり、様々な苦労を経験することになります。

キャバレー「ハリウッド」の隆盛

1957年、26歳で独立し、「巴里の酒場」を開店。独特な経営手法で成功を収めると、1960年には念願のキャバレー「新橋ハリウッド」をオープンします。その後、渋谷、横浜、池袋、銀座と次々と店舗を展開し、最盛期には直営店29店舗、フランチャイズ店を含めると全国に44店舗を数える一大企業に成長させました。銀座店は1000坪という巨大なキャバレーとして有名で、800人を超えるホステスが働く一大エンターテインメント施設でした。

「キャバレー王」と呼ばれ、業界団体である東京キャバレー協会の会長も務めました。多額の納税額を誇り、一時はヨットハーバーや浮世絵美術館の建設も計画しましたが、実現には至りませんでした。株式投資にも積極的に取り組み、企業買収なども行いましたが、バブル崩壊など市場の変動による損失も経験しました。

絵画蒐集家としての顔

太郎氏は、優れた事業手腕に加え、熱心な絵画蒐集家としても知られていました。当初は浮世絵に傾倒していましたが、河鍋暁斎の作品収集から始まり、やがて洋画にも関心を広げ、鏑木清方の作品を本格的に収集するようになります。自身のコレクションを基にした展覧会を数多く開催し、美術界にも大きな足跡を残しました。晩年には、河鍋暁斎記念美術館の建設を計画しましたが、実現には至りませんでした。

多彩な才能と晩年

多様な才能を発揮した太郎氏は、テレビ番組への出演やレコードデビュー、映画出演など、幅広い分野で活躍しました。人生相談番組の回答者として人気を博し、自ら作詞した楽曲を発表するなど、多方面で才能を発揮しました。また、『金と女と我が闘争』を始めとする多くの著作を出版、人生評論家やビジネス評論家としても知られていました。

2018年、老衰のため86歳で亡くなりました。彼の葬儀は「キャバレー葬」と銘打たれ、多くの著名人や関係者が参列しました。

福富太郎氏は、戦後の混乱期から高度経済成長期、そしてバブル経済崩壊後まで、激動の時代を生き抜き、数々の事業を成功させました。その波乱万丈の人生と、稀有な絵画コレクションは、後世に語り継がれるべき貴重な遺産と言えるでしょう。

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