福岡弁

福岡弁（がっしゃい言葉）について

福岡弁、または「がっしゃい言葉」とは、かつて福岡部（福岡城下町）で話されていた方言です。この方言は、武士階級を中心に使われていた格式高い言葉であり、独特の語彙や表現が特徴です。しかし、現在では話者がほぼ高齢化しており、博多弁に吸収される形で、その使用は急速に失われつつあります。

歴史的背景

福岡弁の起源は、江戸時代に黒田氏が博多湾周辺に入国し、福岡城を築いたことに遡ります。福岡城の城下町は、那珂川を境に「福岡部」と「博多部」に分かれ、福岡部は武士やその家族が住む地域でした。この福岡部で話されていたのが、格式を重んじる「がっしゃい言葉」であり、藩祖・黒田孝高の出身地である備前岡山や但馬の方言の影響も受けていると言われています。しかし、もともと話者数が少なかったため、昭和から平成にかけて急速に衰退し、現在では一部の方言研究家の文献に残るのみとなっています。一方、博多弁は博多部を中心に、福岡市とその周辺地域に広がり、現代では広く使われています。

福岡弁の特徴的な語彙

以下に、福岡弁の代表的な語彙とその意味を挙げます。これらの言葉は、現代の博多弁ではあまり使われなくなっているか、または形を変えて使われています。

あんじょう: 兄。（関西弁の「具合良く」の意味ではない。）
うんだあ、おかしさー: まあ、おかしいこと。
がっしゃい: 「来てがっしゃい」「見てがっしゃい」のように使い、「来て下さい」「見て下さい」の意味。「ござらっしゃい」または「御覧（ごろう）じやい」の短縮形が語源とされる。現在ではほぼ使われない。
(し)ない: 「してください」の意。「おいでない」⇒いらっしゃい、おいでください。「おあがんない」⇒おあがりなさい、等。否定の意味ではない。博多弁に吸収。
ござあ: 「らっしゃる」の意。「してござあ、しござあ、ござあ」等⇒「していらっしゃる」、「来(き)ござあ」⇒来られる。博多弁に吸収。
ござっしゃる: 「ござあ」の強調。「来(き)ござっしゃる」⇒お出でになる。
しかちゅーこいとる: 不手際な事をしている。
しゃんしゃん: 武家の娘。（「様々」から。）
しよんさる: していらっしゃる。（「しよんさあ」とも。）博多弁に吸収（「しよんしゃる、しよんしゃあ」）。
ぜー: （終助詞）よ、だよ。（「ちぇ」とも。）博多弁に吸収（「しとるぜ、しとうぜ、しとっつぇ」等）。
たにわくろう: 下級武士。福岡城南西の谷筋に住んでいたことから。また、「わくど、わくろう」はヒキガエルのこと。
ちっと: ちょっとは。岡山弁から。（「ちったあ」とも）
ちんちくどん: 下級武士。沈竹を屋敷の生垣としていたことから。
つかあさい: （して）ください。岡山弁から。（「つかーさい」とも）
とんとん: 武家の息子。ボンボン。（「殿々」から。）
よこになる: 「横になる」＝横臥から、「休憩する」の意。隠喩であり本当に横臥する意味ではない。博多弁に吸収。
わくろうどん: 下級武士。「たにわくろう」参照。

話者

福岡弁を話す人は、現在ではほぼ全て故人です。

下川辰平
秀村選三

参考文献

「九州方言研究会会報 NO20」（2004年12月13日発行） - 杉村孝夫（福岡教育大学教育学部）
『九州方言考―ことばの系譜』原田種夫（読売新聞社、1982年）
『福岡県内方言集』福岡県教育会本部（昭和50年）
『福岡市方言調査書』福岡縣教育會福岡市教育支會
『福岡城言葉<がっしゃいことば>』（窪井健二、2006年）

関連項目

博多弁
肥筑方言

福岡弁は、その歴史的背景や独特の語彙から、福岡の歴史や文化を理解する上で重要な要素です。現在では、その言葉を話す人はほとんどいませんが、文献や研究を通じて、その存在を知り、後世に伝えることは重要です。

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