福岡IT講師殺害事件

2018年 6月24日、福岡県福岡市中央区大名の官民協働型施設で、IT講師が殺害されるという痛ましい事件が発生しました。被害者は、インターネット上で人気を博していた著名ブロガーであり、加害者は、被害者とは直接の面識がない人物でした。この事件は、インターネット上でのトラブルが現実社会に影響を及ぼした事例として、社会に大きな衝撃を与えました。

事件の概要

被害者A（以下A）は、「Hagex」というハンドルネームでブログ「Hagex-day info」を運営していました。そのブログは、インターネット上の様々なトピックを独自の視点で伝えるスタイルが人気を集め、同名義でネットに関する著書も出版していました。一方、加害者X（以下X）は、2016年頃からポータルサイト「はてな」のサービスであるはてなブックマークやはてな匿名ダイアリーで、複数のユーザーに対し誹謗中傷コメントを繰り返していました。アカウントが凍結されても新規アカウントを取得して同様の行為を繰り返すという迷惑行為を行っていました。

Xは、中傷コメントに「低能」という表現を多用していたため、他のユーザーからは「低能先生」と呼ばれていました。Aは、2018年5月に自身のブログで、Xの行為と「低能先生」という呼び名を紹介しました。さらに、Xから被害を受けた場合は、運営に対して「低能先生です」と報告すれば迅速に対処されることを説明しました。このAのブログ記事にXは逆上し、Aへの殺意を抱くに至りました。

事件当日、Aは福岡市内の創業支援施設「福岡グロースネクスト」で開催されるセミナーに講師として参加していました。Xは、Aがセミナーに参加することを知り、会場で待ち伏せしました。セミナー終了後の午後9時頃、Aが1階トイレに立ち寄った際に、Xは刃渡り16.5cmの包丁でAを複数回刺しました。Aはほぼ即死でした。

A殺害後、Xは凶器を持って警察署に出頭し、殺人容疑と銃刀法違反容疑で緊急逮捕されました。2019年11月20日、福岡地裁はXに対し懲役18年の判決を言い渡しました。検察、弁護側ともに控訴せず、懲役18年の判決が確定しました。

犯人

Xは、学校の成績が優秀で九州大学文学部に進学しましたが、留年を繰り返して中退しました。その後、ラーメンの製麺工場で働いていましたが、2012年に退職し、アパートに引きこもってインターネットに没頭するようになりました。精神科医の片田珠美氏は、Xの犯行動機について、「自分自身が『低脳』と中傷される不安や恐怖を払拭するために、他人を『低脳』と罵倒せずにはいられなかったのではないか」と分析しています。

犯行声明

犯行後、Xは「はてな匿名ダイアリー」に、自分を批判した他のユーザーに向けて「最後の書き込み」を行いました。その中でXは、ネット上で「ネット弁慶」や「『低能先生』に人を殺せるはずがない」などと言われたことに対し、「ネットリンチをやめることがなく、俺を『低能先生です』の一言で通報＆封殺してきたお前らへの返答だ」と主張しました。さらに、東京にある「はてな」本社へ向かう計画を断念したことや、書き込み後、自首することを表明しました。

その他

本事件は、加害者と被害者がネット上でトラブルがあったと見られることがありますが、実際にはAとXがネット上で直接やり取りをした事実はありません。Aのブログで度々取り上げられていた、はあちゅう氏やイケダハヤト氏は、Aの死に対して追悼のメッセージを寄せています。2ちゃんねる元管理人の西村博之氏は、「ネット上で顔を知らない同士が揉めることはあるが、殺人事件にまで発展したケースは日本では初めてではないか」と述べています。インターネットニュース編集者の中川淳一郎氏は、加害者のXについて、「秋葉原通り魔事件の犯人に似ている」と指摘し、「Xにとって『はてな』が居場所だったが、そこで通報され続け、運営さえも自分に牙を剥いたと感じたのではないか。居場所を奪われる恐怖から、復讐を考えたのではないか」と犯行動機を推測しています。

この事件は、インターネット上の匿名性がもたらす負の側面を浮き彫りにし、ネット社会における誹謗中傷や逆恨みといった問題に対する深い考察を促すものとなりました。

福岡IT講師殺害事件