福島市歌

「福島市歌」は、福島県の県庁所在地である福島市に古くから伝わる楽曲です。この市歌は、日本の近代詩に偉大な足跡を残した詩人、北原白秋氏が作詞を、また、日本近代音楽界の巨匠として知られる作曲家、山田耕筰氏が作曲を手がけたことで知られています。

両氏は大正時代から昭和初期にかけて、数々の名作を生み出した「黄金コンビ」として評されており、その手による市町村歌は極めて貴重です。現在でも、「福島市歌」は、東京都八王子市歌や愛知県岡崎市歌などと共に、制定から長い時を経てもなお、地域で歌い継がれ、広く親しまれている数少ない現役の市町村歌の一つです。

この市歌が誕生した背景には、当時の福島市民、特に識者の間で抱かれていた「県庁所在地でありながら市歌がない」という状況に対する強い思いがありました。1931年（昭和6年）には、福島県内では既に郡山市が土井晩翠作詞、橋本國彦作曲による市歌を制定しており、福島市側でも文化的な空白を埋めたいという機運が高まっていたことがうかがえます。

市歌制定の具体的な企画を立ち上げたのは、地元の影響力のある新聞社である福島民報社でした。しかし、この動きと並行して、福島市連合青年団もまた独自に市歌制定を目指して活動の準備を進めていることが明らかになります。互いの活動を知った福島民報社と連合青年団は、それぞれが単独で進めるのではなく、合同で市歌を選定し、完成した楽曲を福島市へ寄贈するという形で協力することで意見が一致しました。

作詞者の選定にあたっては、福島民報社が過去に企画した「福島音頭」（1934年）や「信夫小唄」（同年）といった、福島に関連する楽曲を手がけていた北原白秋氏に白羽の矢が立ちました。白秋氏はこれらの仕事を通じて福島市に対して特別な関心と親しみを持っていたことから、快諾を得ることができました。作曲についても、同様に福島民報社を通じて、当時の日本音楽界を牽引していた山田耕筰氏に依頼が行われ、その名曲が誕生しました。

完成した市歌は、1935年（昭和10年）11月22日に、福島県教育会館で開催された福島市連合青年団奉戴記念式典に合わせて正式に発表されました。この記念すべき場で、福島民報社および福島市連合青年団から福島市への楽曲の献納式が盛大に執り行われました。そして、式典のクライマックスとして、福島市立家政女学校の生徒50名が、作曲者である山田耕筰氏の指揮のもと、市歌の斉唱を披露しました。この日を境に、「福島市歌」は福島市の公式な歌として市民に認知されることとなります。

制定から数十年が経過しても、福島市歌は市民生活の中に息づいています。1987年（昭和62年）には、市制80周年を記念して、著名な作曲家であり指揮者でもある團伊玖磨氏の編曲による新しい録音源が制作され、より現代的な音色で歌い継がれる基盤が整えられました。現在、福島市役所では、毎日の始業時刻に庁内放送として市歌が演奏されており、市職員だけでなく、市役所を訪れる市民にも親しまれています。また、福島市音楽堂の前には、市歌の歌詞を記したステンレス製の歌碑が設置されており、市民が気軽に市歌に触れられる場所となっています。

「福島市歌」の歌詞と旋律は、いずれも著作権の保護期間が満了しており、現在はパブリックドメインとなっています。このため、誰でも自由に利用することが可能です。

北原白秋と山田耕筰という日本を代表する芸術家が生み出し、地元紙と青年団の協力、そして市民の願いが結実した形で福島市に届けられました。この歴史的な背景を持つ「福島市歌」は、単なる自治体の歌としてだけでなく、福島市の歩んできた道のりや市民の誇りを象徴する文化的な遺産として、これからも大切に歌い継がれていくことでしょう。

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