橋本國彦

橋本國彦：多才な音楽家が紡いだ多彩な足跡

橋本國彦（1904年9月14日 - 1949年5月6日）は、作曲家、ヴァイオリニスト、指揮者、音楽教育者として、昭和初期の日本音楽界に大きな足跡を残しました。彼の音楽は、クラシック音楽の範疇に留まらず、歌謡曲や映画音楽、さらには軍歌まで、幅広いジャンルに及びました。

生い立ちと音楽への道

東京都本郷で生まれた橋本は、幼少期からヴァイオリンに親しみ、辻吉之助に師事しました。その後、北野中学校を経て、1923年に東京音楽学校（現：東京芸術大学）に入学。ヴァイオリンを安藤幸とヨゼフ・ケーニヒに、指揮法をチャーレス・ラウトロプに師事しました。作曲は信時潔の指導を受けましたが、独学で研鑽を積んだ部分も大きかったと言われています。

在学中から、歌曲『お菓子と娘』や『黴』などで作曲家としての才能を開花させました。斬新な作風は多くの人を魅了し、ポピュラーなCM曲や歌謡曲にも進出。この頃には、ヴァイオリンの指導者としても才能を発揮し、朝比奈隆を育てました。

ヨーロッパ留学と音楽性の深化

1934年から3年間、文部省の命によりウィーンに留学。エゴン・ヴェレスに師事し、アルバン・ベルクの歌劇『ヴォツェック』に触れたり、ヴィルヘルム・フルトヴェングラーやブルーノ・ワルターの演奏を聴くなど、ヨーロッパの最先端の音楽を吸収しました。帰国途中にはロサンゼルスに立ち寄り、アルノルト・シェーンベルクに師事するなど、積極的に新しい音楽を学びました。

モダニストとしての活躍と教育活動

帰国後、橋本は日本洋楽界のモダニストとして、作曲家・編曲家として精力的に活動しました。1933年には母校である東京音楽学校の教授に就任し、後進の指導にも尽力。矢代秋雄、芥川也寸志、團伊玖磨、黛敏郎など、日本の音楽史に名を残す多くの作曲家を育てました。

1940年代前半には、『学徒進軍歌』や『勝ち抜く僕等少国民』などの軍歌を作曲。皇紀2600年奉祝曲として「交響曲第1番ニ調」を作曲するなど、時代の要請に応えた作品も残しています。また、十二音技法を取り入れるなど、常に新しい音楽表現を追求しました。

戦後と晩年

戦後は、戦時下の行動の責任を取り母校を辞職。しかし、音楽への情熱は衰えることなく、『朝はどこから』などの歌謡曲や、戦没者を追悼する『三つの和讃』、日本国憲法公布を祝う『交響曲第2番』など、新たな作品を発表しました。

1949年、胃癌のため44歳という若さで鎌倉で亡くなりましたが、彼の遺した音楽は今もなお多くの人々に愛され続けています。

多彩な作品群

橋本國彦は、その短い生涯の中で、数多くの作品を生み出しました。

管弦楽曲: 交響曲第1番ニ調、交響曲第2番ヘ調、バレエ音楽『香の踊』など
吹奏楽曲: 行進曲『若人よ！』、行進曲『興亜』など
室内楽曲: 古典舞曲『サラバンドの面影』、モザート風のロンディーノなど
ピアノ曲: 『おばあさん』、『行進曲ヘ調』など
合唱曲: カンタータ『皇太子殿下御生誕奉祝歌』、交声曲『英霊讃歌』など
歌曲: 『お菓子と娘』、『黴』、『城ヶ島の雨』など
* 歌謡曲など: 『ラヂオ小唄』、『朝はどこから』など

レコード録音

橋本は、日本ビクターの専属アーティストとして、自作を指揮した自作自演録音や、ヴァイオリン奏者としてのソロ録音を数多く残しました。特に、1943年に日本人として初めてベートーヴェンの第九（第四楽章のみ）を指揮した商業録音は、特筆すべき業績です。また、日本コロムビアにも、東京音楽学校のオーケストラと合唱団を指揮した自作のカンタータや、ハンガリーの作曲家が日本に捧げた交響曲の録音を残しています。

音楽界への貢献

橋本國彦は、作曲家、演奏家、教育者として、日本の音楽界に多大な貢献をしました。彼の作品は、時代を超えて多くの人々に感動を与え、その音楽に対する情熱と才能は、後世の音楽家たちに大きな影響を与え続けています。また、広辞苑に名前が記載されていることからも、彼の功績が広く認められていることがわかります。

高倉健のヒット曲『網走番外地』の原曲が、橋本がペンネームで作曲した映画音楽だったというエピソードも、彼の多才さを示す好例と言えるでしょう。

橋本國彦は、日本の音楽史における重要な人物の一人として、今後も語り継がれていくでしょう。

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