福田八之助

福田八之助（ふくだ はちのすけ）

日本の柔術家。

福田八之助は、文政11年（1826年）に生まれ、明治12年（1879年）8月14日に没した江戸時代末期から明治初期にかけて活動した武術家です。号を柳儀斎、また福田柳儀斎源正儀とも称しました。彼の技は多岐にわたり、特に天神真楊流の他、地元の秩父地方で隆盛していた気楽流や奥山念流において免許皆伝の域に達していました。

経歴

現在の埼玉県秩父郡長瀞町にあたる、当時の武蔵国秩父郡本野上村大字袋の出身です。幼名を持田千代吉といいました。後に福田八郎右衛門の養子となる際に、福田八之助と改名しています。

幼い頃から武術に親しみ、地元で盛んだった奥山念流に入門して柔術の修行を始めました。また、秩父大宮で栄えた気楽流の道場にも通い、これら二つの流派を極めたと伝えられています。

嘉永4年（1851年）または嘉永5年（1852年）、24歳の春に更なる研鑽を積むべく江戸へと出ます。江戸では神田お玉ヶ池にあった天神真楊流の道場を訪ね、三代目宗家である磯正智に師事しました。

天神真楊流での修行を重ね、30歳を迎える頃、磯正智から幕府の講武所師範になることを勧められます。しかし、当時の身分制度の下では、百姓出身である千代吉には講武所師範となる資格がありませんでした。そこで磯正智は、妻の縁者であり、下野国下都賀郡引田村の郷士であり日光山内の取締家系であった福田八郎右衛門（福田誠好斎義典）に依頼し、千代吉を養子に迎えてもらいました。この養子縁組により、持田千代吉は福田八之助と名を改め、身分上の制約を克服したのです。

安政6年（1858年）、31歳で念願の幕府講武所柔術師範に就任しました。文久2年（1862年）9月に講武所の柔術部門が廃止されるまで、その職を務め、多くの武士を指導しました。ただし、講武所師範の名簿には福田の名が見当たらないという資料もあるようです。

講武所閉鎖後も武術の指導を続け、日本橋大工町や文久2年（1862年）には芝神明町に天神真楊流の道場を開設しました。ここでは、江戸に勤番する各藩の武士や、町奴と呼ばれる人々を門弟として指導し、その技を広めました。

明治時代に入ると、柔術を取り巻く環境も変化しますが、福田八之助は活動を続けました。明治6年（1873年）6月には、下谷五條町（現在の東京都台東区上野公園周辺）で開催された柔術と撃剣の興行に参加し、磯正智や磯正信、素行、井上敬太郎といった当時の著名な武術家たちと共に演武を披露しました。また、明治8年（1875年）10月には、浅草寺金龍山に縦6尺、横12尺という大きな額を奉納するなど、社会的な活動も行っています。

福田八之助の最も特筆すべき功績の一つは、後に講道館柔道を創始する嘉納治五郎の師であったことです。嘉納治五郎は明治10年（1877年）に福田道場へ入門し、天神真楊流の柔術を学びました。

明治12年（1879年）8月14日、脳溢血により倒れ、この世を去りました。享年は52歳（満53歳直前）でした。彼の遺体は、本郷駒込の吉祥寺に、嘉納治五郎をはじめとする多くの門弟たちによって埋葬されました。

福田道場は、遺族の意向により、最も信頼されていた門弟である嘉納治五郎に継承されました。嘉納は同所で引き続き門弟たちの指導にあたり、これが後の講道館創設への重要な一歩となったと言えます。

福田八之助は、嘉納治五郎に天神真楊流の技術と精神を伝え、近代柔道の成立に間接的に大きな影響を与えた人物として、日本の武道史において重要な位置を占めています。

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