私の遍歴時代

『私の遍歴時代』

概要

『私の遍歴時代』は、三島由紀夫による自伝的なエッセイであり、彼の17歳から26歳までの文学的成長を追った作品です。この随筆は、彼が38歳の時に振り返ったもので、戦時中の学習院中等科に通っていた時代や、戦後の文壇での初期活動について詳細に述べています。特に、太宰治との交流や『仮面の告白』の発表、初の世界一周旅行までの出来事が描かれており、三島自身の文学経歴を示す貴重な記録となっています。さらに、彼の作品の背景を理解するためにも重要な資料であり、特に昭和文学を研究する上で欠かせない要素を担っています。

発表経過

このエッセイは、1963年1月から5月まで『東京新聞』の夕刊にて連載され、翌年には講談社から単行本として刊行されました。単行本は、すぐに世間の注目を浴び、文学に対する三島の思いや思索が綴られた独特な作品とされました。

内容

『私の遍歴時代』は、三島の出自や文学に対する考察だけでなく、彼の人生を成形した出会いや経験についても触れています。学習院での恩師から日本浪漫派の影響を受けたこと、そして戦時中に発表した『花ざかりの森』。戦後における川端康成とのつながり、太宰治とのエピソードなど、多様な人物との接点が描かれ、彼の成長過程を豊かに語っています。特に、作家としての初期活動や作品にかける思いは、後の作品に大きな影響を与えることになります。

彼の作品の中でも特に印象的なのは、初の戯曲『火宅』の上演や、執筆時の心境です。また、太陽との出会いをきっかけにして語られる船上での出来事や、初の海外旅行による心境の変化も興味深く記されています。これらのエピソードは、彼の文学的探求と人間性を深く理解する手助けとなります。

評価・研究

『私の遍歴時代』は、単なる自伝の枠を超え、三島の文学的視野がどのように形成されたのかを示しています。新聞の書評では、三島の成り立ちを明確に示していると評価され、新進作家たちにとっても興味深い読み物であるとされています。特に、太宰治との対話は昭和文学史における重要な瞬間として記録されています。

埴谷雄高は、三島の作品が戦中・戦後の混沌とした時代を舞台にしつつ、文学に対する彼の独自のアプローチを評価し、そのエネルギーの強さを指摘しています。また、大江健三郎や田中美代子といった後の評論家たちも、彼の文学における「社会的使命」や時代背景について言及し、自伝がいかにその時代の芸術に影響を与えたのかを分析しています。

主な収録刊行本

『私の遍歴時代』は、初版の後もさまざまな形で刊行されており、特に講談社文庫版とちくま文庫版で収録されています。その中でも、特に著名な作品やエッセイが他の著作と共にまとめられ、三島由紀夫研究をさらに進めるための貴重な資料として利用されています。各巻には、有名な作家や評論家による解説が付されており、彼の文学的貢献をより深く理解するための助けとなります。

このように『私の遍歴時代』は、三島由紀夫のライフヒストリーを知る上で重要な作品として位置づけられており、その内容は日本文学史における貴重な財産とされています。

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