私設私書箱

私設私書箱（民間私書箱とも称される）は、企業や個人に対して、郵便物や宅配便などの受け取りを代行するサービスを提供する事業形態を指します。これは、郵便局が提供する公的な私書箱サービスとは異なり、民間の事業者が独自のサービスとして展開しています。郵便局の私書箱が利用に厳しい条件を設けているのに対し、私設私書箱は所定の料金を支払うことで、より手軽に利用できる点が大きな特徴です。

利用者は、私設私書箱業者の所在地を自身の郵便物等の送付先住所として指定します。郵便物や荷物がその住所に配達されると、業者がそれを受領・保管し、後日利用者が直接引き取りに来るか、事前に指定した別の住所へ転送してもらう、といった形でサービスが提供されます。このシステムにより、自宅や事務所の住所を公開したくない場合や、受け取りに時間的な制約がある場合などに便利に利用できます。

私設私書箱を利用する利点は複数あります。第一に、提供される住所表記が実際の事務所や店舗と変わらないような形式であることが多く、ビジネス上の信用を保ちやすい点が挙げられます。郵便局の私書箱では「私書箱番号」が付記されるのが一般的ですが、私設の場合はより自然な表記が可能です。また、郵便物だけでなく、書留、小包、そして宅配便など、多様な種類の荷物を受け取れる点も大きなメリットです。さらに、業者によっては、保管された郵便物などを利用者の指定場所まで配達してくれるサービスを提供している場合もあります。

一方で、一部の業者では、多くの会員を区別するために宛先住所に部屋番号のような細かな数字（私書箱番号に近い機能）を付与することがあります。このような表記は、発送元に不審感を抱かせる可能性があり、インターネットで検索すると実際の場所が雑居ビルの一室やレンタルオフィス、あるいは単なる事務所であることがすぐに判明し、その先の追跡が困難になるという問題点も指摘されています。これは、実際に物理的な「箱」が存在するタイプのサービスに多く見られる傾向です。

事業用途に特化した私設私書箱の派生サービスとして、「バーチャルオフィス」があります。これは主に事業用の住所や電話連絡先を貸与するサービスで、多くの場合、私書箱番号のような分かりやすい番号を付加しないなど、ビジネス利用における配慮がなされています。私設私書箱サービスは単独で提供されることもありますが、電話代行サービスなどと組み合わせて提供されるケースも多く見られます。特にバーチャルオフィスと呼ばれる事業用サービスは、近年レンタルオフィス事業者の間で増加しています。

これまで私設私書箱サービスは、比較的規模の小さい事業者が雑居ビルなどの一室を借りて運営する形態が主流でした。しかし近年、東日本旅客鉄道（JR東日本）グループが2006年秋に東京駅構内でサービスを開始したように、都市部に巨大な駅を持つ大手私鉄や地下鉄事業者などの鉄道関連企業がこの分野に参入する動きが出てきており、今後さらに大手事業者の参入が増える可能性があります。

私設私書箱サービスは、その性質上、匿名性が高まりやすく、犯罪に利用されるリスクも指摘されてきました。これに対応するため、警察庁、経済産業省、総務省は連携し、2008年より施行された「犯罪による収益の移転防止に関する法律（犯罪収益移転防止法）」の中で、私設私書箱事業者（法律上は「郵便物受取サービス業者」）を規制対象としました。この法律により、事業者には以下の4つの義務が課されています。

利用者の本人確認を厳格に行うこと。
本人確認に関する記録を作成し、一定期間保管すること。
取引の内容に関する記録を作成し、一定期間保管すること。
利用者の取引が犯罪による収益に関わる疑いがある場合、速やかに当局に届け出ること。

これらの義務に違反した事業者に対する摘発も行われています。2011年9月に、約70件、被害総額約2億4600万円に上る特殊詐欺事件で利用された私設私書箱の運営者が、経済産業大臣からの本人確認徹底を求める是正命令に応じなかったとして、2012年11月に逮捕されました。この運営者（東京都杉並区在住の20代男性）は、その後罰金30万円の略式命令を受けており、これが犯罪収益移転防止法に基づく私設私書箱業者への初の摘発事例となりました。このような法規制と摘発事例は、サービスの健全な利用促進と犯罪利用の防止を目指すものです。

私設私書箱は利便性の高いサービスである一方で、その利用には法的な義務や潜在的なリスクも伴います。利用者、事業者ともにこれらの点を十分に理解した上で、適切にサービスを利用・提供することが求められています。

もう一度検索