秋山英一

秋山 英一

秋山 英一（あきやま えいいち、1925年10月29日生）は、日本および韓国で活躍した傑出した実業家です。特にロッテ百貨店の設立と発展に深く関与し、同社の副社長として手腕を発揮しました。彼の活動は、後の韓国百貨店業界の礎を築いたとして高く評価されています。

生い立ちと教育

佐賀市多布施に、日本タングステンの創業者である父・秋山英二と母・トシの間に長男として誕生しました。父の勤務地であった門司で幼少期を過ごした後、1931年に父の創業に伴い福岡市へ転居します。1938年には福岡県中学修猷館に進学。学生時代には、後の衆議院議員となる楢崎弥之助に数学と英語を学んでいます。修猷館時代の同期には、著名な経営学者の林周二や医学者の緒方道彦などがいました。1943年に慶應義塾大学経済学部へ進むも短期間で自主退学し、翌1944年に旧制第五高等学校に入学。その後、1949年には早稲田大学商学部の3年生に編入しました。

日本でのキャリア

早稲田大学を1951年に卒業後、三越百貨店に入社し、百貨店ビジネスの世界へ足を踏み入れます。順調にキャリアを重ね、1963年には38歳という若さで大阪三越婦人子供服部長に昇進しました。しかし、1966年に知己である福岡玉屋の田中丸善八会長からの誘いを受け、福岡玉屋へ転職します。この際、長年勤めた三越への敬意を表すため、福岡玉屋社長の田中丸善輔を通じて三越社長の松田伊三雄へ正式な挨拶を行わせるという律儀な一面を見せました。その後、小倉玉屋に移籍。当時隣に出店していたダイエーとの共存共栄を目指した戦略や、藤田田との協業によるダイヤモンド販売など、斬新なアイデア商法を次々と展開し、小倉玉屋の売上を大きく向上させました。1972年には小倉玉屋の常務営業本部長に就任しています。

ロッテでの挑戦

1970年代後半、ロッテグループが韓国で本格的な大型百貨店の展開を計画するにあたり、その指揮を執る統括責任者として、百貨店での実績と若さを兼ね備えた秋山氏に白羽の矢が立ちました。度重なるスカウトに対し、当初は乗り気でなかった秋山氏は、断りの意を伝えるためにロッテ創業者の重光武雄に直接会います。しかし、重光氏の熱意に感銘を受け、勧められて視察したソウルの街の活気と、一方でファッションリーダー不在や日本との商習慣の違いを目の当たりにし、韓国での百貨店経営という新たな挑戦への意欲を燃やしました。こうしてロッテへの入社を決意します。1977年、韓国ロッテホテル常務・百貨店事業本部長として迎え入れられました。この時も、長らく世話になった玉屋への筋を通すため、重光氏に福岡玉屋社長の田中丸善司、小倉玉屋社長の田中丸善昌へ挨拶を行わせています。後に、重光氏は秋山氏の前にダイエーの中内㓛とも提携を試みていたことが明らかになりました。

秋山氏の挑戦は、「ソウルの中心から韓国国民の生活を明るく豊かにする」という目標のもと始まりました。当時の韓国百貨店では、店員が客からの呼びかけにようやく応じるのが一般的でしたが、秋山氏は日本の百貨店で行われている丁寧なお辞儀や挨拶といった接客スタイルの導入を試みます。当初は韓国の文化にそぐわないとの批判も受けましたが、ロッテ百貨店の成功を通じてこの日本式接客は次第に他の百貨店にも広がり、現在では韓国の百貨店業界に完全に定着しています。また、それまで多かったテナント方式（売り場の半分以上を業者が借りる形式で値札も不明瞭な状況）を改め、直営販売を約9割とし、掛け値なしの正札販売を徹底するなど、近代的な経営の基本を確立しました。

成功の軌跡と影響

1979年12月17日、ロッテ百貨店ソウル本店は開業を迎えました。重光オーナーによるテープカットの後、クラシック愛好家であった秋山氏の選曲によりオペラ「アイーダ」の凱旋行進曲が流されました。この曲はその後、韓国各地のロッテ百貨店だけでなく、他の百貨店でも開店時の曲として定着するほど影響を与えます。開業初日の来店者数は約10万人を記録し、華々しいスタートを切りました。ソウル本店での成功を皮切りに、秋山氏は釜山店など韓国各地のロッテ百貨店の開業指導にも携わります。

日本では1975年頃からデパートでバレンタインセールが始まっていましたが、秋山氏はいち早く韓国での導入を提唱します。会議で提案してもバレンタインデー自体が知られていない状況で、メディアからは「日本の悪しき消費文化」と批判されましたが、やがて一般化し、1997年にはソウル本店だけで5億ウォンの売上を記録する一大イベントとなりました。

さらに、秋山氏はヒット商品の開発にも積極的に取り組みました。日本人観光客からの問い合わせをきっかけに、ごま油と塩で味付けした「韓国風味付け海苔」を開発。これが観光客だけでなく韓国人の間でも好評を博します。また、韓国の生活水準向上に伴い一人暮らしが増加すると予測し、従来の常識に反して小分けパック入りキムチの導入を決断。社内での強い反対意見にもかかわらず実行に移すと、日本人観光客の土産品としてだけでなく、地方からソウルへ移住してきた一人暮らしの人々にも飛ぶように売れました。秋山氏が考案したこれらの商品は、後に韓国を代表する土産品として広く認知されるようになります。

ロッテ退任後

ロッテワールド計画にも深く関与し、百貨店・ホテル・テーマパークからなる複合施設の建設プロジェクトに参画。デパートとホテルは1988年11月、テーマパークは1989年7月に開業しました。1988年にはロッテ百貨店を運営するロッテショッピングの副社長営業総括担当に就任し、1995年に同社の常任顧問を務めた後、ロッテグループを退任しました。その後も多くの韓国流通企業の顧問として、業界の発展に貢献し続けました。

ロッテ百貨店で秋山氏の指導を受けた多くの人々は、後に韓国全土で活躍し、今日の韓国百貨店業界を支える存在となっています。その多大な功績から、秋山英一氏は「韓国百貨店業界の父」として、多くの流通関係者から深く敬愛されています。

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参考文献：藤井通彦『韓国流通を変えた男－ロッテ百貨店創成記－』（西日本新聞社、2006年）

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