秋期限定栗きんとん事件

秋期限定栗きんとん事件

概要

『秋期限定栗きんとん事件』は、作家米澤穂信による推理小説で、2009年に創元推理文庫から出版されました。この作品は、彼の著作の中で人気のある〈小市民〉シリーズの第三弾であり、シリーズ初の長編作品です。これまでの連作短編形式から一転し、上下巻にわたって物語が展開される形式となっています。物語の舞台は、前作『夏期限定トロピカルパフェ事件』の直後であり、主人公の常悟朗と小佐内の高校生活の一年間を描きます。二人の人間関係の変化や友情、恋愛の中での葛藤が重要なテーマとなっています。

本作では、小佐内の彼氏である瓜野高彦も新たな語り手として加わり、物語は常悟朗と瓜野の二人の視点から進行します。この語りの手法により、キャラクターたちの内面がより深く描かれ、読者は彼らの思考や感情に共感することができます。

出版当初の仮題『秋期限定マロングラッセ事件』は、タイトル決定の際に甘味の魅力について議論が交わされ、最終的に現在のタイトルに変更されました。栗きんとんやマロングラッセは、物語中の比喩としても位置づけられており、内容の深さを加えています。また、本作はアントニー・バークリーの初期作品からの影響を受けていることが、インタビューで明かされています。

あらすじ

物語は、小佐内が誘拐された『夏期限定トロピカルパフェ事件』の後から始まります。常悟朗と小佐内は、互恵関係を解消した状態で新たな学期を迎えます。常悟朗はクラスメイトの仲丸と交際を始め、彼女との日常に謎が絡み合う中で楽しんでいきます。一方、新聞部に所属する瓜野高彦は、学内の話題だけしか取り上げてもらえない現状に不満を感じ、外部のネタを取り上げることを求めていました。そんな中、瓜野は小佐内に恋をし、彼女と付き合うことになります。

瓜野は新聞部の『月報船戸』で、断続的に発生している連続放火事件に焦点を当て、その法則を発見していきます。彼はその予測を発表することで次々に犯行現場を的中させていきますが、放火犯逮捕に向けての野心が膨らむ一方で、周囲の反発を受けることになります。常悟朗は、連続放火事件に小佐内が関与しているのではないかと心配になり、独自に事件を調査することになります。

結末

学期が進むにつれ、瓜野は新聞部の部長へと昇進しますが、放火犯追跡において思うような成果が出せずにいました。常悟朗も事件に深く関与し、彼の周囲の人々や小佐内との関係がより複雑さを増していきます。最終的に、瓜野が発見した放火犯の法則が実は偶然の産物であり、内部の協力者を通じて真実が明らかになります。成し遂げた事件の真相を共有する中で、常悟朗と小佐内は新たな道を歩むことを決意します。

全体を通して、『秋期限定栗きんとん事件』は、友情、恋愛、そして個々の成長を探求しながらも、謎解きの面白さを失わない優れたミステリー作品に仕上がっています。

もう一度検索