秋桜の空に

秋桜の空に

『秋桜の空に』（こすもすのそらに）は、2001年7月27日にMarronから発売された18歳以上対象の恋愛アドベンチャーゲームです。本作はMarronの記念すべきデビュー作であり、ゲームを原作として小説、アンソロジーコミック、ドラマCDなど様々なメディアで展開されました。

概要

開発元であるMarronは、本作のジャンルを「笑いと涙の癒し系AVG」と銘打っています。このゲームの中心テーマは、主人公とヒロインたちが互いに心を通わせ、傷つきやすい内面を癒し合う過程を描くことにあります。作品の舞台となるのは「奈々坂」という街で、この場所はMarronの後の作品、『お姉ちゃんの3乗』（2003年）や『ひまわりのチャペルできみと』（2007年）とも世界観を共有しており、過去作の登場人物が登場するなど、作品間の繋がりが描かれています。また、制作スタッフによる同人活動から生まれたクロスオーバー作品や、世界観を共有する作品との直接的なコラボレーションとなるライトノベルも存在します。

特筆すべきは、本作がMarronにとって最初の作品であったにもかかわらず、2002年8月には作品単独の同人誌即売会「クリケット」が開催されるほどの人気を集めたことです。これは、デビュー作としては異例の反響と言えるでしょう。

あらすじ

物語の主人公は、奈々坂学園に通う2年生の少年、新沢靖臣（にいざわ やすおみ）です。彼は自らを「運動もスポーツも青春を燃やす心優しいナイスガイ」と称していますが、実際には両親と離れて、かつて祖父が住んでいた家で一人暮らしをしています。しかし、年の離れた幼馴染である桜橋涼香（さくらばし すずか）、個性豊かなクラスメイト、そして彼を慕う後輩に囲まれ、一見すると楽しい学生生活を送っているように見えます。

ですが、靖臣には彼と涼香だけが共有する過去の秘密がありました。この秘密は彼が両親と疎遠になった理由とも関わっており、それゆえに彼は他者と深く心を通わせることを躊躇していました。涼香もまた、靖臣の抱える葛藤を案じて心を痛めています。

文化祭が間近に迫った秋の穏やかな日、学園の雰囲気にも変化が訪れる中、靖臣と周囲の人々との関係性も少しずつ変わり始めます。初めて心の底から愛する人を見出した主人公に、その先に待ち受けるものとは一体何なのか。これは、過去の傷を抱える少年が、人との繋がりの中で自分自身と向き合い、真の愛を見つけるまでの物語です。

登場人物

本作には、魅力的なキャラクターたちが多数登場します。ドラマCD版での担当声優は豪華な顔ぶれとなっています。

主要キャラクター

新沢 靖臣（にいざわ やすおみ）: 物語の主人公。奈々坂学園2年生。常識にとらわれない言動で周囲を騒がせるトラブルメーカーでありながら、本人は全く気づかないほどの魅力で異性を惹きつけます。過去の出来事が原因で記憶の一部を失い、現在は一人で生活しています。
桜橋 涼香（さくらばし すずか）: 奈々坂学園3年生。主人公の隣家に住む幼馴染で、「すずねえ」と呼ばれ慕われています。靖臣をこの上なく溺愛し、彼の望み全てに応えようとします。一見完璧に見えますが、極度のあがり症で、靖臣のこととなると少し独占欲が強くなる一面も。彼女の献身的な愛情の背景には、過去の事件に対する複雑な思いも含まれています。後の「姉萌え」ムーブメントの先駆け、「姉ゲーの源流」とも言われる存在です。
佐久間 晴姫（さくま はるひ）: 奈々坂学園2年生。主人公とは別のクラスの女子水泳部部長。つるぺたと言われることを極端に嫌い、指摘されると容赦ない反応を見せます。ある理由から主人公に敵意を抱いていますが、実は料理が得意という意外な一面も。彼女は「ツンデレ」という言葉が広まる上で代表的なキャラクターとして挙げられることがあり、その語源の一つとして語られることもあります。
楠 若菜（くすのき わかな）: 奈々坂学園2年生で、主人公のクラスメイト。裕福な家庭のお嬢様ですが、病弱で入退院を繰り返しています。しかし、その境遇にめげることなく、明るく前向きに振る舞い、周囲から尊敬されています。「カナ」と語尾につけて話す独特の口癖が特徴です。
尼子崎 初子（あまこざき ういこ）: 奈々坂学園2年生で、主人公のクラスメイトであり若菜の親友。跳ねた髪と眼鏡、グラマーな体型が特徴の美少女ですが、主人公にも劣らない行動力と奇抜な発想で、街では「暴れん坊」として知られています。奈々坂神社の娘であり、巫女姿で過ごすこともあります。
小泉 ひより（こいずみ ひより）: 奈々坂学園OGで、現在は大学に通う教育実習生として母校にやってきます。主人公たちのクラスを担当し、「ひよ先生」と呼ばれ親しまれます。美人ながら非常にドジで、しっかり者の妹とは対照的な性格です。独特の口癖と笑い方が印象的です。

この他にも、主人公を慕う後輩の小泉鞠音（ひよりの妹）や、常に不思議な猿「コスモス星丸」を頭に乗せた野々宮美影など、個性豊かなサブキャラクターたちが物語を彩ります。

スタッフ・楽曲・関連作品

企画と全てのシナリオは竹井10日が担当しました。キャラクターデザインと原画は岩舘こう、SDキャライラストはすめらぎこうが手掛けています。主題歌はYUIKOが歌唱する「さよならを空に」（オープニング）、「癒」（挿入歌）、「Everlasting Flower」（エンディング）があります。

ゲーム発売後には、小説、アンソロジーコミックが出版され、ドラマCDシリーズも複数展開されました。ドラマCDではゲーム本編で描かれなかったエピソードや、特定のキャラクターに焦点を当てた物語が描かれています。

『秋桜の空に』は、その心温まるストーリーと魅力的なキャラクター、そして後のギャルゲー文化に影響を与えたとされる要素（姉萌えやツンデレといった属性の描写）により、多くのファンに愛され続けている作品です。

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