秋田昌美

秋田昌美：ノイズミュージックの先駆者にして、多様な顔を持つアーティスト

秋田昌美（1956年生まれ）氏は、Merzbow（メルツバウ）名義で知られる日本のノイズミュージックのパイオニアです。東京生まれ。玉川大学文学部芸術学科卒業。1979年からMerzbow名義での音楽活動をスタートさせました。Merzbowという名は、ダダイスムやジャンクアートに造詣の深い秋田氏が、ドイツの芸術家クルト・シュヴィッタースの作品「Merzbau」から着想を得たものです。

音楽活動：冷たく、機械的なノイズサウンド

灰野敬二氏や非常階段といった日本のノイズミュージックシーンを代表するアーティストたちとともに、日本のノイズミュージック、いわゆるジャパノイズの草分け的存在として、秋田氏は独自の道を歩んできました。しかし、灰野氏や非常階段がバンドサウンドによる、より肉感的なノイズを追求するのに対し、秋田氏のMerzbowは、シンセサイザーや電子機器、無機質な音を多用した、冷たくインダストリアルなノイズサウンドを特徴としています。その圧倒的な多作ぶりも注目に値し、1979年から現在までに300枚以上のCDをリリースしています。活発なライブ活動や他アーティストとのコラボレーションも継続的に行っています。

国際的な評価と影響力

秋田氏の暴力的なまでに強烈なノイズサウンドは、日本国内にとどまらず、海外、特に欧米でも高く評価されています。2000年にはオーストラリアのノイズレーベルからCD50枚組が発売されるなど、その影響力は計り知れません。ソニック・ユースのサーストン・ムーアなど、多くの海外アーティストからも深い敬意と支持を受けており、ムーア氏は自身の飼い犬に「Merzbow」と名付けたという逸話も残っています。

著述活動：セクシュアリティと社会への鋭い視線

音楽活動のみならず、秋田氏はセクシュアリティ、とりわけBDSMなどいわゆる「スカムカルチャー」をテーマとした著作も多数発表しています。その著作は、社会の規範や道徳観念、性表現に関するタブーと真っ向から対峙し、多くの読者に衝撃と議論を与え続けました。『倒錯のアナグラム―周縁的ポルノグラフィーの劇場』、『フェティッシュ・ファッション―変貌するエロスと快楽身体』、『スカム・カルチャー』など、数々の問題作を世に送り出してきました。これらの作品を通じて、秋田氏は、性や身体、そして人間の欲望に関する独自の哲学を展開しています。

ストレートエッジのヴィーガン：一貫したライフスタイル

秋田氏は、徹底したヴィーガンとして知られています。他人によって調理された肉、飼っていない鶏の卵、他人が作った乳製品を一切摂取せず、革製品も着用しません。さらに、酒やタバコも一切口にしない、厳格なストレートエッジでもあります。しかし、この強い倫理観は、動物愛護活動への積極的な参加や、捕鯨、イルカ漁への反対表明といった行動にも表れています。自宅では多くの鳥を飼育する愛鳥家の一面も持ち、その愛鳥の経験が作品にも反映されているようです。一方で、ケンタッキーフライドチキンを批判するチラシを作品に同封するなど、ユーモラスな一面も見せています。

結論：多面的な表現者としての存在感

秋田昌美氏は、ノイズミュージックという枠を超えた、多面的な表現者です。その音楽活動、著述活動、そして生活スタイルは、一貫して強い倫理観と社会への鋭い視点を示しています。音楽、著作、そして生き方、その全てが、現代社会に問いかける、独自のメッセージを発信し続けているのです。彼の活動は、これからも多くのアーティストや思想家に影響を与え続けることでしょう。

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