秦政明

秦 政明（はた まさあき）は、1930年に大阪で生まれ、2003年3月にその生涯を閉じた日本のプロデューサーです。大阪大学を卒業後、音楽業界へと足を踏み入れ、特にフォークソングの世界で重要な役割を果たしました。

大学時代には、社会的なメッセージを持つ歌を歌い継ぐ「歌ごえ運動」に深く関わり、この頃からの知人には作詞家・音楽評論家の田川律がいます。卒業後の1958年、秦はクラシック音楽のコンサート企画・運営を手がける大阪国際フェスティバル協会に入社し、音楽ビジネスの基礎を学びました。

1962年には同協会から独立し、海外アーティストの関西での公演を主催するイベンター会社、「アート・プロモーション」を設立します。コンサートプロモーターとしての手腕を振るう中で、音楽に対する独自の視点を培っていきました。

転機が訪れたのは1966年です。大阪労音でフォークソング愛好会を立ち上げ、森山良子や当時まだアマチュアだったザ・フォーク・クルセダーズといったアーティストを集めた「フォーク・フォーク・フォーク」というイベントを企画・開催していました。この活動を通じて、秦は高石ともやと出会います。高石の生み出す音楽に強い衝撃を受けた秦は、彼を自宅に迎え入れ、寝食を共にしながら二人三脚で音楽活動を進めていくことになります。

1967年9月、秦はアート・プロモーションとは別に、高石ともやを中心に据えた「高石事務所」を大阪に設立しました。この事務所には、高石ともやのほか、中川五郎やザ・フォーク・クルセダーズといった、当時の関西フォークシーンを代表するアーティストたちが合流し、関西フォークの一大拠点となっていきます。

翌1968年には、ザ・フォーク・クルセダーズの楽曲「帰って来たヨッパライ」が東芝音楽工業からリリースされることになります。この商業レコードの発売にあたり、著作権管理を行うための版権会社が必要となったため、秦は新たに「アート音楽事務所」を設立しました。また、同年1月には、東京・原宿のセントラル・アパートの一室に高石音楽事務所の東京事務所も開設し、活動の拠点を広げました。

1969年1月、アート音楽事務所は月刊誌『フォーク・リポート』を創刊。フォークソングに関する情報を発信し、シーンの活性化に貢献しました。そして同年2月、秦は日本の音楽史において特筆すべき事業を開始します。関西フォークの中心的存在となっていた高石事務所所属アーティストの作品を、既存のレコード会社の枠やレコード倫理規定（レコ倫）に縛られることなく、より自由にリスナーに届けたいという思いから、会員制のレコードクラブ「アングラ・レコード・クラブ（URC）」を設立したのです。URCは「自由な音楽を創造し、自由な形で発表する」という理念のもと、社会的なメッセージ性の強い楽曲や実験的な作品など、既成のレコード会社では発表が難しかったであろう多くの重要な作品を世に送り出し、日本のフォークシーン、特にアングラフォークの発展に絶大な影響を与えました。秦はURCの社長として、その活動を牽引しました。

1970年1月、「高石事務所」は名称を「音楽舎」と改め、引き続き活動を続けましたが、1978年、秦はこの音楽舎の経営をいとこの秦慎一郎に引き継ぎ、音楽業界から身を引くことを決意します。その後は、かねてより関心のあった日本古代史の研究に没頭し、穏やかな晩年を過ごしたと言われています。

2003年3月に逝去した秦政明は、イベンターとして、そしてURCの設立・運営者として、日本のポピュラー音楽史、特に1960年代後半から1970年代にかけてのフォークソングシーンにおいて、既成の概念にとらわれず自由な音楽表現を追求・支援した功績は計り知れず、その名前は今なお語り継がれています。

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