稲村の変

稲村の変（いなむらのへん）

概要

稲村の変とは、戦国時代の1533年から1534年にかけて安房の里見氏で発生した内紛のことを指します。この事態は、稲村城において里見実堯が殺害されたことを端緒にしており、その背後には家督争いや権力闘争が潜んでいました。近年行われた研究によって、伝えられてきた通説と実際の歴史とのズレが明らかになり、里見氏の歴史を理解する上で新たな視点を提供しています。

伝承とその流れ

通説では、里見義豊が叔父である実堯を殺し、その家督を奪ったとされている。この背景には、里見義通が重篤な状態に陥ったことによって、義豊が5歳の頃から実堯がその後見人として家督を掌握していたという経緯があります。義豊が15歳になった時には、義通の配慮により家督移譲が行われる予定でしたが、北条氏の侵攻を理由に実堯は移譲を遅らせ続けました。この間、義豊側近が実堯とその重臣である正木通綱の間に争いを起こすような讒言を流し、事件の発端を作ることになります。

義豊が20歳になった1533年、ようやく移譲が実行される予定でしたが、実堯が義豊を見限り、次期当主に自らの息子義堯を据えようとしているという噂が広がります。この局面に義豊は激怒し、稲村城を襲撃し、実堯と正木通綱を殺害するという暴挙に出ました。これにより、義堯は義豊に対する復讐を決意し、北条氏との同盟を結んで反撃を開始します。

史実の明確化

しかし、近年の研究によれば、実際にはこの伝承とは異なり、状況は一変します。義豊は家督を脅かす実堯を誅殺し、その後、実堯の子である義堯が仇討ちの名の下に反乱を起こしたとする説が有力視されるようになりました。

義豊はすでに当時の家督を担う立場にあり、実堯と義堯が上総金谷城に拠る中で、北条氏の介入を招く結果となりました。北条氏綱は義豊を排除する策略を巡らせ、実際に義豊側の重臣たちによる実堯の誅殺を計画し、成功を収めることになります。その後、義豊は義堯の反撃を受け、最終的には犬掛での敗北によって命を落とすことになりました。

内紛の意味と影響

稲村の変は単なる権力闘争に留まらず、房総半島を巡る北条氏と里見氏の間の大きな権力争いの一環であったといえます。この時期、義豊方は旧勢力を失い、義堯方は新しい家臣を獲得することで政権を構築していきました。また、歴史の中で重要な人物となった義堯は、北条氏との同盟を破棄し自らの立場を確立していく過程で、次第に周辺勢力との関係が変化していくことになります。

結論

稲村の変を通じて見えてくるのは、実際の歴史がどのように後世の伝承によって歪められたのかということです。義堯は、義豊を誅殺する正当性を高めるために新しい物語を作り上げ、これが後の里見氏の公式な歴史観として定着しました。近年の研究では、そのような過程や背景に注目が集まり、里見氏の真の姿を再評価する動きが見られます。古文書を元にした新たな歴史的調査によって、これまでの通説が覆されつつあることは、歴史研究の面白さではないでしょうか。

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