稲沢潤子

稲沢潤子（いなざわ じゅんこ）

1940年10月5日、静岡県に生まれる。小説家、ルポルタージュ作家として活動。本名は岩田淳子である。

静岡県立沼津東高等学校を経て、お茶の水女子大学、そして名古屋大学で学んだ。大学卒業後は出版社に勤務し、その傍ら創作活動を開始する。

作家としての第一歩は、1969年に『民主文学』誌2月号に掲載された短編小説「二足めの靴」である。その後も、『群像』や『民主文学』といった文芸誌を中心に、精力的に作品を発表していった。初期の作品としては、1972年に発表された「紀子の場合」などが挙げられる。

稲沢潤子の著作活動において、ルポルタージュは重要な柱の一つとなっている。社会の様々な問題や、その中で生きる人々の姿に深く切り込む姿勢が特徴である。特に、1981年に北海道で発生した北炭夕張新炭鉱ガス突出事故は、彼女のルポルタージュ活動における大きな契機となった。事故後の夕張を取材し、そこで暮らす人々の声や町の状況を丹念に記録した『夕張のこころ』を刊行。厳しい現実の中での人間の尊厳や繋がりを描き出した。

夕張以外にも、彼女のルポルタージュは幅広いテーマを扱っている。例えば、障碍のある人々の生活や権利に関わる問題、千葉県立小金高等学校で持ち上がった卒業式における問題など、社会的な関心が高い事象にも積極的に取材し、その背景にある人間のドラマや構造的な問題点を浮き彫りにした。これらの活動は、『涙より美しいもの 大津方式にみる障害児の発達』や『おおらかに、自由の風よ 県立小金高校の熱い夏』といった著作に結実している。

ルポルタージュで培われた現実への深い洞察は、小説作品にも反映されている。1987年には、夕張を舞台にした長編小説『地熱』を発表。炭鉱閉山後の町の衰退と、そこで生きる人々の葛藤や希望を描いたこの作品は高い評価を受け、同年、多喜二・百合子賞を受賞した。

作家活動に加え、文学団体の運営にも貢献している。日本民主主義文学会においては、2007年より副会長を務め、さらに2011年からは会長に就任し、1期2年間にわたりその任にあたった。

主な著書には、『紀子の場合』、『冬草の萌え』といった初期の小説から、『自立する女性の系譜』、『いのちの肖像 医療過誤』のようなルポルタージュ、『星の降る谷間』、『北の碑』、『早春の家』、『早春の庭』、そして近年の『わたしの鵞鳥・墳墓』などがある。また、『障害を知る本』や『難病の子どもを知る本』といった、子どものための啓発書のシリーズ編著にも携わっており、社会的な弱者に寄り添う視点は一貫している。

多岐にわたる著作活動を通じて、稲沢潤子は現代社会の抱える問題や、そこに生きる人々の力強い姿を描き続けている。

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