稲葉恒通

稲葉恒通：臼杵藩の第七代藩主、その生涯と藩政、そしてお世継ぎ騒動

稲葉恒通（いなば つねみち）は、江戸時代中期、豊後国（現在の大分県）臼杵藩の第七代藩主として生きました。

若き藩主の苦悩：相次ぐ幕府の普請手伝いと藩財政の窮乏

宝永3年（1706年）に父である稲葉知通の跡を継ぎましたが、その治世は決して平穏なものではありませんでした。幕府からの度重なる普請手伝い（公共工事の負担）により、臼杵藩の財政は深刻な状況に陥ります。恒通は、藩財政を立て直すために、倹約令の発布、御用金の徴収、運上金制度や借上制度の導入など、様々な改革を試みました。

しかし、これらの政策は十分な成果を上げることができませんでした。享保5年（1720年）6月25日、恒通は31歳という若さでこの世を去ります。若すぎる死は、改革が道半ばで終わる一因となりました。跡は長男の稲葉董通が継ぎます。

稲葉恒通の系譜：朝廷、将軍家との繋がり

稲葉恒通は、歴史上の著名な人物たちと血縁関係にありました。曾孫の勧修寺婧子は仁孝天皇の生母であり、恒通は仁孝天皇の高祖父にあたります。さらに、織田信長、明智光秀、斎藤道三といった戦国時代の英雄たちの血も引いていました。

また、正室には松平直明の娘を迎えており、この正室の祖父は結城秀康であったため、徳川家康の玄孫を妻としていたことになります。このように、稲葉恒通は朝廷や徳川将軍家とも繋がりを持つ人物でした。

お世継ぎ騒動：寵愛された側室と正室の悲劇

稲葉恒通の治世において特筆すべきは、お世継ぎを巡る騒動です。正室との間には子供がおらず、二人の側室との間にそれぞれ男子がいました。恒通は、弟の母親である側室を深く寵愛し、「お通」という名を与えました。武家において、側室が主君から一字を賜ることは異例であり、お通は嫉妬深く、贅沢を好む女性であったと伝えられています。

正徳4年（1714年）、お通の讒言により、正室である松平直明の娘は離縁させられ、明石へと送られることになりました。しかし、明石へ向かう道中、正室は明石屋敷近くの駕籠の中で自害してしまいます。この悲劇に、家老の稲葉弥七兵衛成正、山田縫殿豊俊、用人の稲葉主馬重秀らは恒通を諫めますが、逆に罷免されてしまいます。

お通は、自分の産んだ子を世継ぎにするために、董通を毒殺しようと企て、毒入りの饅頭を食べさせようとしました。しかし、恒通が誤ってその饅頭を食べてしまい、それが原因で病に倒れ、31歳で死去したとされています。

忠義の家老と藩主の承認

董通が家督を継ぐには、正室の父である松平直明の承認が必要でした。家老の加納外記演也は、切腹を覚悟して松平直明に許しを請いに行きます。直明は、「稲葉家に特別の感情はないが、忠義を尽くす家老を犬死にさせるのは忍びない」として、「自分の孫に間違いない」と董通の家督相続を認めました。外記はその後、隠居して観渓と号しました。

この一件以降、稲葉家では正室の子は早世するなどして家督を継ぐことがなく、世継ぎはすべて側室から出るようになったと噂されました。また、この時代から臼杵藩の財政はさらに悪化し、借入が増加したと批判されています。

稲葉恒通の短い生涯は、藩財政の苦境、お世継ぎを巡る争い、そして正室の悲劇など、様々な出来事に彩られています。その治世は、臼杵藩にとって大きな転換期となったと言えるでしょう。

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