御用金

江戸時代の非常事態対応策：御用金

江戸時代、幕府や藩は度々財政難に陥りました。その窮状を救済するため、臨時に課せられたのが「御用金」です。町人や農民、時に寺社仏閣までもが、この臨時税の負担を強いられました。一見すると借金のような体裁をとっていましたが、実際は低利の長期返済、あるいは事実上の強制献金に近いものでした。

御用金の目的と徴収

御用金の主な目的は、軍事費の調達、災害による救済、大規模な工事費用、そして物価安定政策など多岐に渡りました。海防強化や長州征伐といった軍事行動に伴う費用は、大きな負担となりました。また、飢饉発生時の窮民救済や、江戸城再建などの大規模な工事も、御用金を必要とする要因でした。米価高騰を防ぐための政策、いわゆる「御買米令」も、その財源を御用金に頼ることがありました。

徴収は、主に天領（幕府直轄地）の都市や農村で行われました。大坂は「天下の台所」と呼ばれ、特に多くの御用金が課せられました。宝暦11年（1761年）には、大坂の有力商人から巨額の御用金が徴収された記録が残っています。江戸、堺、西宮、兵庫などの都市部も、大きな負担を強いられました。

時代が下るにつれ、徴収の対象は拡大していきました。一般庶民だけでなく、寺社や山伏といった武士以外のほぼ全階層にまで及んだ事例もあります。しかし、大名や旗本は知行権を持っていたため、彼らから直接御用金を徴収することは困難でした。

領民への負担を軽減するため、領民代表と幕府の役人との間で協議が行われ、最終的な徴収額は当初の予定より減額されるのが一般的でした。それでも、農民や町人にとって、御用金は大きな経済的負担であり、生活を圧迫したことは間違いありません。

儒学者たちの意見

御用金に関しては、儒学者たちの間でも議論が巻き起こりました。農民への課税は問題視される一方で、都市の町人については、年貢の負担が少ないにもかかわらず贅沢な生活を送る者もいるとして、彼らから御用金を取り立てることで農民の負担を軽減すべきとの意見もありました。この意見は、当時における社会階層間の経済格差や、税制の不公平さを反映していると言えるでしょう。

明治政府と御用金

明治政府も、発足当初は財政基盤が脆弱であったため、御用金に頼る場面がありました。京都や大坂周辺の町人や農民から巨額の資金を徴収した記録が残っています。また、政府発行の太政官札の引き受けも、事実上の強制的な御用金でした。しかし、後に欧米の例にならい公債を発行する方針に変更されたことにより、明治2年（1869年）に御用金は廃止されました。

御用金の事例

以下に、主な御用金の事例を年代順に示します。それぞれの目的、徴収額、対象者などが記録されています。これらの記録から、御用金が当時の社会経済に及ぼした影響の大きさを伺い知ることができます。

宝暦11年：米価引き上げのための御用金（大坂町人）
天明5年、天明6年：諸侯財政救済のための御用金（大坂町人、全国規模）
文化3年、文化7年、文化10年：米価引き上げ、幕府財政融通のための御用金（江戸、大坂町人）
天保元年：西丸造営のための御用金（江戸札差商人）
天保14年：融通と窮民救済のための御用金（大坂、堺、兵庫、西宮町人）
嘉永6年：海防費用のための御用金（大坂、兵庫、西宮町人）
安政7年（万延元年）：外国対応と本丸普請のための御用金（大坂町人）
元治元年：長州征伐軍資のための御用金（大坂町人）
* 慶応元年、慶応2年：長州征伐軍資、幕府財政融通のための御用金（江戸、大坂、兵庫、西宮町人）

これらの事例は、御用金が単なる財政対策だけでなく、当時の社会情勢や政治状況を反映していることを示しています。御用金の歴史を学ぶことは、江戸時代の社会構造や経済状況を理解する上で、非常に重要な意味を持ちます。

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