空気のなくなる日

岩倉政治『空気のなくなる日』解説

『空気のなくなる日』は、1947年に発表された岩倉政治による児童向け小説です。雑誌『子供の廣場』に掲載され、その後、学校教材としても広く用いられました。本作は、ハレー彗星の接近時に起こったパニックを題材に、社会の混乱と人々の滑稽な姿を描いています。

物語の背景

1910年、ハレー彗星の接近が近づくにつれ、世界中で終末論が囁かれました。フランスの天文学者カミーユ・フラマリオンの説が広まり、「彗星の尾に含まれるガスが地球上の酸素と結合し、人類が窒息する」という噂が人々の不安を煽りました。その結果、有毒ガスから身を守るためのマスクや酸素吸入器が売れるなど、社会現象にまで発展しました。

あらすじ

物語は、「その年の七月二十八日」に「地球上から空気が5分間なくなる」という噂が広まる場面から始まります。最初は誰も信じていませんでしたが、校長先生が県庁の役人も信じているらしいと伝えると、学校や村は大混乱に陥ります。子供たちは5分間息を止める訓練を試みますが、うまくいきません。そこで、自転車のチューブや氷嚢に空気を溜めておくというアイデアが生まれました。しかし、需要の高まりから氷嚢の価格が高騰し、貧しい農村では地主の子どもしか購入できませんでした。

学校教材としての採用

本作は発表後、『小学六年生 文学読本』に掲載され、有島武郎や志賀直哉といった著名な作家の作品と共に紹介されました。その後も、熊谷孝の『文学序章』など、様々な教材に採用され、長年にわたり教師と児童・生徒の心を捉えてきました。

タイトルの変遷

興味深いことに、本作のタイトルは発表当初の「空気のなくなる日」から、後に「空気がなくなる日」へと変更されました。これは文法教育上の都合によるものと考えられます。しかし、その後も「空気のなくなる日」と「空気がなくなる日」の2つのタイトルが混在して使用され続けています。

翻案作品

『空気のなくなる日』は、映画化もされています。1949年には伊東寿恵男監督によって『空気の無くなる日』として映画化されました。映画では特撮が多用され、鷺巣富雄や渡辺善夫といったスタッフが参加しました。渡辺善夫は、画面全体を絵で表現する「全画」という技法を日本で初めて成功させました。また、1959年にはテレビドラマ版も制作され、ラジオ東京の「日立劇場」枠で放送されました。

類似作品

藤子・F・不二雄の漫画『ドラえもん』には、本作に類似したエピソード「ハリーのしっぽ」があります。このエピソードでは、ハレー彗星接近時にスネ夫の先祖がチューブを買い占めるという物語が描かれています。

『空気のなくなる日』は、彗星接近という社会不安を背景に、噂に翻弄される人々の姿をユーモラスに描いた作品です。教材としても長く愛され、映画やドラマなど、様々な形で翻案されています。

もう一度検索