窓辺にて

『窓辺にて』は、2022年 11月4日に公開された日本の映画作品。監督・脚本は今泉力哉が務め、俳優の稲垣吾郎が主演を務めた。

本作は、日常の中で繰り広げられる様々な人間関係や恋愛模様を描きつつ、それらを通して「誰かを好きになる」という感情そのものの根源や、人が抱く感情の多様性、あるいはその欠如といったテーマを深く掘り下げている。

あらすじ

物語の中心となるのは、かつて小説家として活動していたが、今はフリーライターとして生計を立てている市川茂巳（稲垣吾郎）。過去の恋愛を題材にした作品以降、筆を折った彼だが、ひょんなことから「吉田十三賞」を受賞した現役女子高生作家、久保留亜（玉城ティナ）と出会う。

受賞作を読み込み、記者会見で的確な質問を投げかけた茂巳に興味を持った留亜は、彼に親しく接するようになる。留亜の作品のモデルを知りたがる茂巳に、彼女は彼氏である水木優二（倉悠貴）を紹介するが、優二はどこか掴みどころのない、奔放な若者だった。

一方、茂巳とは家族ぐるみの付き合いがあるプロスポーツ選手、有坂正嗣（若葉竜也）は、怪我のリハビリ中に自身の引退の意思を不倫相手のタレント、藤沢なつ（穂志もえか）に漏らす。夫から最初にその話を聞かされたことに喜びを感じるなつだが、同時に密かな愛人関係に負担も感じ始めていた。

茂巳の妻で編集者の市川紗衣（中村ゆり）は、自身の担当する売れっ子小説家、荒川円（佐々木詩音）と肉体関係を持っていた。スランプに陥り悩む荒川は、茂巳こそが小説にするべき題材を抱えていると考え、筆を置いた彼に苛立ちを募らせる。

留亜は茂巳に、自身の伯父であるカワナベ（斉藤陽一郎）を紹介する。山の小屋で隠者のように暮らす彼は、留亜の父親（自身の弟）と共にテレビ番組を制作していた過去を持ち、過労でリタイアしたと語る。留亜の父親は、捏造疑惑によって精神的に追い詰められ、行方不明になっているという。カワナベから話を聞く中で、茂巳は自身が妻の不倫に気づいていることを告白する。しかし、その事実を知っても怒りや悲しみといった感情が一切湧かないことに、茂巳は自身でも戸惑いを隠せないでいた。

妻の不倫と、それに対する自身の無感情について、茂巳は友人である有坂夫妻に相談を持ちかける。有坂の妻・ゆきの（志田未来）は、感情が動かない茂巳に憤慨し、紗衣が不憫だと彼を追い返す。しかし後日、今度はゆきのの方が茂巳夫妻のもとを訪れる。彼女もまた、夫である正嗣の不倫に気づきながらも、夫を愛するゆえに知らないふりを続けていたのだ。茂巳は明確なアドバイスはできなかったが、感情を率直に表現するゆきのの姿に、羨望のような気持ちを抱く。

自宅で荒川の小説について話すうち、紗衣は茂巳が自身の不倫に気づいていたことを知り、なぜ何も言わなかったのかと彼を問い詰める。茂巳は自身に、誰かを心から好きになるという感情が欠けていることを打ち明け、自身の存在が誰かを傷つけるのなら、別れることでせめて役に立ちたいと願い、役所で離婚届の用紙を受け取る。

そんな悩める茂巳を呼び出した留亜は、彼氏である優二から別れを告げられたことについて愚痴をこぼす。翌朝まで留亜の遊びに付き合った後、茂巳は荒川に呼び出される。荒川は紗衣と話した後、二日間で書き上げたという新作の小説を茂巳に渡し、編集者であり妻でもある紗衣は、茂巳に小説を書いて欲しかったのだと語る。荒川が紗衣との時間について書いたのだと察する茂巳に、荒川は書いた結果、それが「過去」になってしまったと悔やむ表情を見せる。そして、紗衣との出来事を小説に書かなかったのは、それを過去にしないための茂巳の優しさだったのだと荒川は語る。

茂巳は有坂夫妻を証人に、離婚届に署名する。しかし、その離婚届を役所に提出したかは不明のまま、茂巳は喫茶店で優二と話す。久々に会った留亜から荒川の最新作を読むよう勧められた優二は、その意図を測りかねて茂巳に相談を持ちかける。やり直したいのだろうと茂巳に言われ、嬉しそうな優二は、荒川の新作に登場するヒロインが、最後まで怒りを感じない男性に惹かれ続けていることを明かすのだった。

主な出演者

市川茂巳：稲垣吾郎
市川紗衣：中村ゆり
久保留亜：玉城ティナ
有坂正嗣：若葉竜也
荒川円：佐々木詩音
水木優二：倉悠貴
有坂ゆきの：志田未来
他

スタッフ

監督・脚本：今泉力哉
音楽：池永正二
主題歌：スカート「窓辺にて」

受賞歴

第35回東京国際映画祭観客賞
2022年岐阜新聞映画部ベスト・テン主演男優賞（稲垣吾郎）
* 第96回キネマ旬報ベストテン読者選出日本映画ベスト・テン第3位

この映画は、複雑に絡み合う人間模様と、それぞれの登場人物が抱える感情の揺れを丁寧に描き出すことで、観る者に自分自身の感情や、他者との関係性について深く考えるきっかけを与える作品となっている。

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