立場川橋梁

立場川橋梁：歴史と技術の交錯する鉄道橋

長野県諏訪郡富士見町に架かる立場川橋梁は、JR中央本線信濃境駅と富士見駅間に位置する鉄道橋です。この橋梁は、明治時代に建設された旧橋梁と、昭和時代に建設された新橋梁の2代に渡り、中央本線の歴史を刻んできました。

明治の遺産：旧立場川橋梁

1904年（明治37年）に完成した初代の立場川橋梁は、ボルチモアトラス橋という形式の鉄橋でした。当時としては最先端の技術を用いて造られたこの橋は、1980年（昭和55年）まで中央本線の運行を支えました。中央本線の複線化に伴い役目を終えましたが、赤錆びた姿で現在も残存しています。その歴史的価値から、保存に向けた議論が長年続けられてきました。

旧橋梁は、中央部が単線上路式分格プラットトラス（ボルチモアトラス・ピン結合）、両端が上路式プレートガーダーという構造を持ち、トラスとプレートガーダーは共にアメリカン・ブリッジ社製でした。1983年には国鉄から富士見町に無償譲渡され、近代化遺産としての保存計画もありましたが、老朽化による安全性の懸念から、2006年には町が補正予算を投じてボルトと枕木の撤去を行いました。

その後、富士見町教育委員会は保存・修復にかかる莫大な費用と、住民の安全確保の両面から、文化財指定は見送る結論を出しました。保存には2～3億円、解体には2,000万円程度と推定される費用も、判断を難しくした要因の一つです。地元住民からはハイキングコースとしての整備を求める声もある一方、富士見町は2024年6月、町長が撤去の方針を表明。専門家やゼネコンと連携し、撤去に向けた調査を進めている段階です。この決定は、歴史的価値と現実的な町民負担のバランスを考慮した結果と言えるでしょう。映画『風立ちぬ』や『怪物』の撮影にも使用されるなど、文化的にも注目を集める旧橋梁の未来は、依然として注目されています。

近代の技術：新立場川橋梁

旧橋梁の南側に建設された2代目の橋梁は、1980年に完成したプレストレスト・コンクリート橋です。ラーメン形式の複線上路式連続橋で、橋脚高42mは当時のコンクリート製鉄道橋としては日本最高を誇りました。この新橋梁の建設は、中央本線の複線化工事の一環として行われ、日本国有鉄道岐阜工事局富士見工事区が施工を担当しました。

建設は1974年11月に下部工、1976年3月に上部工が着工され、高冷地であることを考慮し、寒中コンクリート対策として不寝作業でのヒーター保温なども行われました。橋脚と桁は軽量化のため中空構造となっています。また、移動式作業車による片持ち式（カンチレバー）架設工法を採用するなど、当時最先端の技術が投入されました。

新橋梁は、旧橋梁から約230m下流に位置し、延長339m、スラブ軌道を有しています。半径1000mの左曲線と20/1000の上り勾配を持つ線形も特徴です。このような複雑な線形条件の中で、経済性と保守管理の観点からPC桁が採用されました。

まとめ

立場川橋梁は、明治時代の技術と昭和時代の技術が融合した、歴史と技術の両面から見て貴重な存在です。旧橋梁の保存問題に関しては、地元住民や関係者の意見を踏まえ、慎重な議論が続けられています。一方で、新橋梁は、現在も安全かつ安定した鉄道運行を支える重要なインフラとして機能しています。

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