竜との舞踏

竜との舞踏

『竜との舞踏』（りゅうとのぶとう、A Dance with Dragons）は、ジョージ・R・R・マーティンによるファンタジー小説シリーズ『氷と炎の歌』の第5部であり、壮大な物語がさらに深く展開していきます。2012年のローカス賞 ファンタジイ長篇部門を受賞。当初は三部作の第2部として構想されていましたが、シリーズは7部構成で完結する予定です。

本作は、第4部『乱鴉の饗宴』と合わせて一冊になる予定でしたが、そのあまりの長大さから二分割されました。第4部と第5部は、物語の時系列が前後しているのではなく、登場人物や場所によって分けられています。そのため、第4部がウェスタロス南部を中心とした内乱を描くのに対し、第5部では〈壁〉のジョン・スノウ、北部でのシオン・グレイジョイ、そして東の大陸エッソスでのデナーリス・ターガリエンの動向が中心に描かれます。

あらすじ

『氷と炎の歌』シリーズは、中世ヨーロッパを彷彿とさせる架空の世界を舞台に、魔法が存在し、季節が長く続く世界で繰り広げられる王国の玉座を巡る争いを描いています。物語は、ウェスタロス大陸での内戦、〈壁〉での極北からの侵略、そしてエッソスでのターガリエン家の復権という、三つの主要な筋で進行します。

『竜との舞踏』は、第3部『剣嵐の大地』の出来事に続く物語であり、第4部『乱鴉の饗宴』と並行して進行します。この巻では、ジョン・スノウが〈野人〉と同盟を結び〈冥夜の守り人〉の反発に遭う、ブランとアリアがそれぞれ緑視者と暗殺者の訓練を受ける、スタニスがウィンターフェルを攻めるも大雪に阻まれる、デナーリスが征服地の統治に苦しみ、ティリオンが助力しようとする、サーセイが失政を重ねるという、それぞれのキャラクターが抱える困難が描かれます。

〈壁〉

ジョン・スノウは第998代の〈冥夜の守人〉の総帥に選出されますが、内外に敵を抱えます。選挙に敗れたジャノス・スリントはジョンを認めず、ジョンはジャノスを処刑します。この決断にスタニス・バラシオンはジョンへの信頼を深め、〈鉄の銀行〉の使節ティコ・ネストリスは、サーセイを見限りスタニスを支持します。ジョンはティコと交渉し食料購入の資金を借ります。

マンス・レイダーが生存していることを知り、アリアを救うためウィンターフェルに向かう計画を立てる一方、ジョンは〈野人〉との講和を結び、〈壁〉の防衛のために〈野人〉を守備隊に徴用します。〈紅の祭司〉メリサンドルはジョンに多くの幻視を語り、〈冥夜の守り人〉の中に敵がいると警告します。アリス・カースタークは、大叔父がスタニスを裏切ろうとしていると訴え、ジョンはアリスと〈野人〉の族長を結婚させます。

物語の終盤、ジョンは〈誓約の兄弟〉に襲われ、刺されて倒れます。一方、ブラン・スタークは〈三つ目の鴉〉を探し求め、〈森の子ら〉が住む洞窟にたどり着き、緑視力を訓練します。ブランはウィアウッドを通して、過去のエダード・スタークや現在のシオン・グレイジョイと交流します。

狭い海の向こう側

父を殺したティリオン・ラニスターは、ヴァリスの手によってペントスに逃れ、イリリオ・モパティスに匿われます。ヴァリスとイリリオは、死んだと思われていたエイゴン・ターガリエンを擁立し、ウェスタロス奪還を企てます。ティリオンはエイゴンに、デナーリスの助けなしに侵攻すべきだと説得します。

しかし、ティリオンはジョラー・モーモントに誘拐され、デナーリスに差し出そうとします。旅の途中で難破し奴隷商人に捕まり、ミーリーンに到着後、傭兵団に加わります。

ブレーヴォスでは、アリア・スタークが〈顔のない男たち〉の暗殺者として訓練を受けます。盲目になる期間を経て視力を取り戻し、組合の一員となります。

奴隷商人湾

デナーリス・ターガリエンは、ミーリーン内外の敵と疫病に苦しみ、成長したドラゴンを制御できずにいます。ダーリオ・ナハーリスとの関係を続けながら、ユンカイとヴォランティスからの攻撃を避けるため、ヒズダール・ゾ・ロラクと結婚します。

闘技場の再開後、デナーリスは毒殺されそうになりますが、ドロゴンが現れて彼女を乗せて飛び去ります。デナーリス不在の間、バリスタン・セルミーはミーリーンの支配権を掌握します。ドーンのクェンティン・マーテルはデナーリスに求婚しますが拒否され、ドラゴンを盗み出そうとして命を落とします。

ヴィクタリオン・グレイジョイ率いる鉄人の艦隊がミーリーンに向かいますが、デナーリスを救い結婚し、兄ユーロンを王位から引きずり下ろそうとしています。

七王国

北部

北部では、スタニス・バラシオンが〈壁〉を拠点に勢力を拡大しようとしますが、ラニスター家はルース・ボルトンを北部総督に任命します。スタニスはジョン・スノウの助言に従い、山岳民の協力を得て〈深林の小丘城〉を奪還します。

ダヴォス・シーワースはホワイト・ハーバーに到着し、マンダリー公は偽りの忠誠を誓いつつ復讐を計画します。マンダリー公はオシャがリコン・スタークをスカゴス島に隠したと伝え、リコンを連れ戻すことで北部人をスタニスに味方させようとします。

一方、シオン・グレイジョイはラムジー・ボルトンに拷問され、精神を病んでいます。ラムジーの命令でケイリンを降伏させますが、シオンはジェイン・プールが偽のアリアであることを知ります。シオンはジェインと共に逃亡しますが、スタニスの陣営で姉のアシャに会っても誰だかわかってもらえません。

南部

サーセイ・ラニスターは〈七神正教〉に囚われ、罪を認めます。保釈の条件として裸で行進させられ、民衆から屈辱を受けます。クァイバーンは”サー・ロバート・ストロング”という巨人を作り上げます。ケヴァン・ラニスターとグランド・メイスター・パイセルが政権を立て直そうとする中、リヴァーランドではジェイミーがブラックウッド家との交渉を終え、リヴァーランの包囲を終わらせます。

ジェイミーはブライエニーからサンサの危機を知らされますが、それは罠である可能性が高いです。エイゴン・ターガリエンとジョン・コニントンは〈黄金兵団〉とともにストームランドに上陸し、勢力を広げます。ドーラン・マーテルは家族にサーセイがトリスタンを殺す計画を立てていることを明かし、オバラ、ナイメリア、タイエニーにそれぞれ使命を与えます。ケヴァンがヴァリスに殺され、冬の到来が告げられます。

物語は16人の視点人物によって語られ、各章には視点人物の名前が記されています。プロローグとエピローグもそれぞれの視点人物を通して描かれています。

日本語版

本作は、酒井昭伸訳により早川文庫から全3巻で刊行されています。また、早川書房からも単行本として出版されています。

ドラマ

本作と第4部を原作としたドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の第5、第6シーズンでは、以下のような差異があります。

ジョン・スノウのハードホーム遠征が描かれる。
ダヴォスはホワイト・ハーバーへ行かない。
マンス・レイダーは〈壁〉で処刑、ジェイン・プールは登場しない。
スタニス、シリーン、セリースが死亡。
ジェイミーがブロンと共にドーンへ。
ジョン・コニントン、エイゴンは登場しない。
ヴィクタリオン、クェンティンは登場しない。
ミーリーンの疫病は描かれず、バリスタン・セルミーが殺害される。

この作品は、複雑な人間関係と政治的な駆け引き、そして魔法とファンタジーが織りなす壮大な物語です。

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