童夢-零

童夢-零と童夢P-2：幻のスーパーカーとその軌跡

童夢-零(Dome Zero)は、日本の自動車メーカー童夢が1978年のジュネーブモーターショーで発表したミッドシップスポーツカーです。国産メーカーによるスーパーカー開発が困難視されていた時代に、独自の技術と情熱で生み出された一台は、世界中から注目を集めました。本稿では、童夢-零と、そのアメリカ市場進出を目指して開発された童夢P-2について、開発から現在に至るまでの経緯を詳細に解説します。

開発の経緯：夢への挑戦

童夢-零の開発は、レーシングカーコンストラクターとして活躍していた林みのる氏によって1975年に始まりました。林氏の自宅を拠点に、限られた人員と資金で開発は進められました。ハヤシレーシングのホイール販売による成功が資金源となり、マキやコジマのF1プロジェクトにも携わったベテランエンジニアたちが集結しました。

開発チームは、大阪の工場街のアパートを拠点に、寝食を忘れて作業に没頭しました。FRP加工による独特の臭いによる騒動や、多忙のため開発メンバーの既婚者全員が妻に逃げられたというエピソードも伝えられています。1年3ヶ月という短期間で試作車が完成し、童夢株式会社が設立されました。

ジュネーブモーターショーと世界からの注目

1978年3月、ジュネーブモーターショーで初公開された童夢-零は、当初は会場の片隅に展示される予定でした。しかし、その革新的なデザインと高いポテンシャルは、メディア関係者を含む多くの来場者の注目を集め、展示場所が会場の中心へと変更されました。

市販価格も発表されていない段階で、ブルネイ王室やジャッキー・チェン、レジー・ジャクソンなど、世界的な著名人から多数の予約注文が殺到しました。これは、日本の自動車メーカーが世界的な舞台で存在感を示した象徴的な出来事でした。

市販化の挫折と新たな挑戦：童夢P-2

国土交通省'>[スーパーカー]]ブームの終焉期に発表された童夢-零は、日本の厳しい排出ガス規制と型式認定取得の困難さという壁に直面しました。[[運輸省]が申請すら受け付けなかったため、童夢はアメリカ市場への進出を決定。アメリカでの法規に準拠した追加試作車として童夢P-2を開発しました。

童夢-零はロータス・エスプリに匹敵する俊敏なハンドリングと1,000万円程度の価格帯を目指していましたが、日本の法規に適合させる過程で、その実現は困難を極めました。

副産物とル・マンへの挑戦

市販化が難航する一方で、童夢-零はプラモデル、ラジコン、消しゴムなど、関連商品の販売で莫大なロイヤルティー収入を得ました。この収入を元に、童夢は京都府内に本社を構えることができました。玩具メーカーからの新型車の開発依頼を受け、林氏はル・マン24時間レース参戦という新たな挑戦を宣言しました。童夢-零RLフォードの開発・参戦は成功を収めませんでしたが、その挑戦は童夢のブランドイメージを確固たるものにしました。しかし、このル・マン挑戦によって、童夢P-2の開発は事実上中断され、童夢-零の市販化計画も頓挫することになりました。

童夢-零：デザインと技術

「世界一全高が低い車」というコンセプトで設計された童夢-零は、全高980mmという極端に低い車高が特徴です。ウェッジシェイプのボディは、空力性能を高めるための工夫が凝らされています。しかし、その結果、室内空間は狭隘となり、身長175cm程度までしか快適に搭乗できないという課題も抱えていました。

シャシーは複雑な形状のスチールモノコック、サスペンションは前後ダブルウィッシュボーン、ブレーキはガーリング製を採用するなど、当時としては最先端の技術が投入されました。国産車にこだわり、2.8Lの日産L28型エンジンを搭載。ボディパネルは軽量なFRP製、ヘッドライトはリトラクタブル式、ドアはガルウイング式という、スーパーカーらしいスタイリングも備えていました。

インテリアは、デジタルメーターや赤外線センサーによるウィンカー制御など、近未来的なデザインが取り入れられています。現在も童夢本社で展示され、その歴史を物語っています。

童夢P-2：アメリカ市場への挑戦

童夢P-2は、童夢-零のアメリカ市場進出を目指して開発されました。一見すると童夢-零と似ていますが、日米の保安基準の違いをクリアするために、シャシー構造やサスペンション、ボディパネルなど、多くの部分が見直されました。そのため、童夢-零との部品互換性はほとんどありません。2台の試作車が製作され、アメリカでのモーターショーにも出展されました。しかし、様々なテスト走行や改良にもかかわらず、最終的には市販化には至りませんでした。

そして現在へ

童夢-零と童夢P-2は、市販化には至らなかったものの、日本の自動車史に名を刻む一台となりました。その革新的なデザインと技術は、後世の自動車開発にも影響を与え、多くのファンを魅了し続けています。現在も、童夢の社屋に保存され、その姿を後世へと伝えています。様々なメディアにも登場し、その存在感は衰えることを知りません。

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