端原氏系図及城下絵図

端原氏系図及城下絵図の紹介

『端原氏系図及城下絵図』は、江戸時代の国学者である本居宣長が作成した、架空の氏族「端原氏」に関する系図と城下絵図の作品です。本作品は、1746年頃から1748年にかけて執筆されました。現在、松阪市で保管されており、1968年には「本居宣長稿本類並関係資料」に登録され、重要文化財に指定されています。

宣長の背景と執筆の経緯

本居宣長は1730年に伊勢国松坂の裕福な商人、小津家に生まれました。12歳の頃からさまざまな学問を学び、特に地理に強い関心を持つようになります。1745年には江戸に移り、大伝馬町の叔父の店で過ごすなかで、初めてのオリジナル作品『松坂勝覧』を執筆します。この作品は松坂の地誌として、多くの情報が含まれていました。

延享2年から延享3年にかけて、宣長は地理や系図に対する興味を深め、自らの文化的貢献として系図の執筆を始めます。1746年には系図や物語の資料の作成が行われ、一方で「端原氏城下絵図」の制作も1748年に開始されました。これにより、彼が描く架空の物語が徐々に具体的な形をとり始めます。

作品の構成

『端原氏系図』は、詳細にわたる系譜の記述が特徴的で、架空の人物として「大系図」や「御系図」などが含まれています。合計で約300名の架空の人物が記載されており、彼らの出自や知行地、官職などが詳細に描写されています。この系図は、侍階級の家系を理解するための重要な資料となっています。

一方、城下絵図は、51.5 cm × 71.5 cmのサイズで、封筒型の折帖装をされています。中央には堀に囲まれた御所が描かれ、その周囲には氏族の屋敷や社寺、川の配置が詳細に描かれています。この絵図もまた、宣長の構想する物語と密接に関連しており、彼の文化的な視点を色濃く反映しています。

研究の歴史と評価

この作品は、宣長の子孫である本居清造によって「洛中洛外ノ図」と命名されたことがあります。当初、絵図は現実の地形とは異なる町割りを背景にしていたため、その意義や構成が長らく議論の対象となりました。文化庁の調査官による検討の結果、すべてが架空のものであることが明らかになり、岡本勝や中根道幸の研究によって、絵図と系図は宣長が目指していた物語のための資料であるとされています。

結論

『端原氏系図及城下絵図』は、本居宣長の文学的、歴史的関心と想像力が結実した作品であり、架空の氏族を通じて江戸時代の文化や思想を理解する上で重要な文献と言えるでしょう。それは、ただの絵や系図に留まらず、宣長の地域文化への貢献や、彼の思考の一端を感じさせる貴重な資料です。

もう一度検索