競業避止義務

競業避止義務とは

競業避止義務とは、特定の者が自己または第三者のために、その地位を私的に利用して、会社などの営業と競争的な性質の取引をしてはならない義務を指します。法学上の用語であり、商法・会社法と労働法の双方で使用されます。

商法・会社法における競業避止義務

商法・会社法では、以下の者が競業避止義務を負います。

支配人（商法第23条）
代理商（商法第28条）
取締役、執行役（会社法第356条、第419条）
持分会社の業務執行社員（会社法第594条）

これらの者は、在任中に会社の承認なしに競業行為を行うことが禁じられています。違反した場合は、損害賠償責任を負う可能性があります。

労働法における競業避止義務

労働法における競業避止義務は、主に以下の2つの側面があります。

1. 在職中の競業行為の禁止：従業員が在職中に、使用者の不利益になるような競業行為（兼職など）を行うことを禁止すること
2. 退職後の競業行為の制限：従業員の退職後に、競業他社への就職を禁じたり、競業となる事業を始めることを制限する特約（競業禁止特約）

在職中の競業行為は、労働契約における信義誠実の原則に基づく義務とされ、違反した場合は懲戒処分の対象となることがあります。一方、退職後の競業避止義務は、職業選択の自由（憲法22条1項）との関係で、その有効性が問題となることがあります。

競業避止義務の有効性

退職後の競業避止義務の有効性は、個別のケースによって判断が異なります。経済産業省は、「秘密情報の保護ハンドブック」において、競業避止義務契約の有効性を判断する基準として、以下の6つの要素を挙げています。

1. 守るべき企業の利益の有無：企業秘密やノウハウなど、保護に値する利益が存在するか
2. 従業員の地位：従業員が企業秘密に接する機会が多かったか、重要な役割を担っていたか
3. 地域的な限定：競業を禁止する地域が限定されているか
4. 存続期間：競業避止義務の期間が妥当であるか
5. 禁止される競業行為の範囲：禁止される行為が明確かつ限定的であるか
6. 代償措置：競業避止義務に対する代償措置（給与、退職金など）が講じられているか

これらの要素を総合的に考慮し、競業避止義務が合理的な範囲に留まっているかが判断されます。代償措置の有無は、裁判所が重視する要素の一つです。

違反した場合

競業避止義務に違反した場合、企業は以下のような措置を講じることができます。

退職金の減額または不支給
損害賠償請求
* 競業行為の差止請求

ただし、これらの措置は、競業避止義務が有効である場合に限られます。

例外（芸能人・スポーツ選手）

芸能人やスポーツ選手の競業避止義務は、独占禁止法との関係で、より厳格に判断されます。公正取引委員会は、芸能事務所が芸能人の退所後の活動を不当に制限する契約は、原則として独占禁止法に違反すると発表しています。

まとめ

競業避止義務は、企業の正当な利益を保護するために重要な制度ですが、労働者の職業選択の自由とのバランスを取る必要があります。企業は、競業避止義務を定める際には、上記の要素を考慮し、合理的な範囲で義務を課すように心がける必要があります。また、従業員も、競業避止義務の内容を十分に理解し、合意する必要があります。

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