竹下和男

竹下和男（たけしたかずお、1949年 - ）は、日本の教育者であり、子どもたちが自ら弁当を作る「弁当の日」の提唱者として知られています。株式会社オフィス弁当日の代表取締役社長を務め、鳥山敏子の実弟でもあります。

生い立ちと教育への志

香川県で生まれた竹下氏は、幼少期に地域の大人たちから「油屋のむすこ」と呼ばれて育ちました。小・中・高・大と素晴らしい教師との出会いを通じて、教職への憧れを抱きます。香川大学教育学部を卒業後、江戸時代の農本思想家である安藤昌益の思想を研究し、卒業論文を執筆。この研究が、後の昌益研究や全集出版のきっかけとなりました。

「弁当の日」の提唱と実践

1972年4月から香川県内の小中学校や県教育委員会で勤務。2000年4月より、小学校・中学校の校長を歴任する中で、2001年10月より「子どもが作る弁当の日」をスタートさせました。これは、献立の作成から買い出し、調理、弁当箱詰め、片付けまでの全てを子どもたち自身が行うという取り組みで、保護者には一切手伝わないように求めました。この実践は、食育コンクールで最優秀賞を受賞し、食育基本法の施行とともに全国的な講演活動へと発展しました。

大学教授への道も考えましたが、教員生活の楽しさから小中学校の教員として定年を迎えることを決意しました。

「弁当の日」運動の背景と理念

竹下氏が「弁当の日」を始めたきっかけは、小学校での給食の食べ残しの多さでした。子どもたちに食べ物の大切さや作る大変さを知ってもらいたいという思いから、この取り組みを始めました。

「弁当の日」には、

一家団らんの食事の実現
食べ物の命への感謝
感性を磨く
人に喜ばれる喜びを知る
感謝の気持ちを持つ
世界を確かな目で見つめる

という6つの夢が込められていました。これらは、人格形成において小学生の時期に獲得してほしい能力を育むことを意図していました。

「弁当の日」の実践においては、以下の3つのルールが設けられました。

1. 弁当作りの全工程を子どもだけで行うこと
2. 対象学年を5・6年生に限定し、事前指導を授業で行うこと
3. 10月から2月にかけて月1回、計5回実施すること

これらのルールを守ることで、子どもたちは自立心を養い、技術を習得し、互いに学び合うことができました。

全国への広がりと影響

当初はなかなか広まらなかった「弁当の日」でしたが、2005年に西日本新聞の特集記事で取り上げられたことをきっかけに、全国へと広がりを見せました。講演会や食育イベントが開催され、関連書籍も出版されるなど、大きな反響を呼びました。

「弁当の日」の取り組みは、他の教育者にも影響を与え、「イナマス方式」や「みそ汁の日」といった独自の食育活動が生まれるきっかけとなりました。また、大学教授や助産師など、様々な分野の人々と連携し、活動を広げていきました。

2012年には、「弁当の日応援プロジェクト」が発足し、企業からの協賛金による講演会やフリーペーパーの発行などが行われました。宮崎県では県下の学校に「弁当の日」の実施を呼びかけ、高い実施率を誇っています。

2020年には、ドキュメンタリー映画『弁当の日』が完成し、全国で自主上映されるなど、その影響はますます広がっています。

教育思想

竹下氏は、子どもの成長には「くらしの時間」「あそびの時間」「まなびの時間」の3つが大切であると述べています。「まなびの時間」で得たストレスを「あそびの時間」と「くらしの時間」で癒すことが重要であると考えていますが、現代の子どもたちの生活では、この2つの時間が不足していることを憂慮しています。

主な著作

『弁当作りで身につく力』（講談社　2012年）
『お弁当を作ったら』（共同通信社　2014年）
『弁当の日がやってきた』（滝宮小学校共著　自然食通信社　2003年）
『台所に立つ子どもたち』（国分寺中学校共著　自然食通信社　2006年）
『始めませんか　子どもが作る弁当の日』（鎌田實共著　自然食通信社　2009年）
『泣きみそ校長と弁当の日』（渡邊美穂共著　西日本新聞社　2010年）
* 『できる！を伸ばす弁当の日』（竹下和男編著　共同通信社　2011年）

竹下和男氏の提唱する「弁当の日」は、食育を通じて子どもたちの自立心と感謝の心を育み、豊かな人間性を形成するための重要な取り組みとして、今後もますます注目されていくことでしょう。

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