安藤昌益

安藤昌益（あんどう しょうえき）は、江戸時代中期に活躍した医師であり、思想家、哲[[学者]]として知られています。元禄16年（1703年）に秋田藩で生まれ、宝暦12年（1762年）に60歳でその生涯を閉じました。彼は、医師としての活動と並行して、独自の思想を展開し、社会変革を訴えました。

生涯

昌益は、秋田県大館市二井田の豪農の家に生まれました。幼少期から利発だったため、元服前に京都へ出て仏門に入り禅を学びました。しかし、仏教の教えに疑問を抱き、医師である味岡三伯に師事し、医学を学びました。その後、陸奥国八戸で開業医として活動を始め、地域の人々の治療にあたりました。

延享元年（1744年）には、八戸藩の日記に昌益が流鏑馬の射手を治療した記録が残されています。また、延享2年（1745年）には、領主層を対象とした政治の書『暦大意』を執筆し、その中で不仁の領主を厳しく批判しました。昌益は、町医者という立場でありながら、社会の矛盾を鋭く見抜き、その改善を訴え続けました。

宝暦3年（1753年）には、彼の主著である『自然真営道』が刊行されました。この書は、彼の思想を体系的にまとめたものであり、社会の変革を求める思想が色濃く反映されています。宝暦8年（1757年）には、故郷である大館に帰郷し、その後も村人の治療に尽力しました。昌益の思想は、当時としては非常に革新的であり、彼の死後、近代になってから社会主義や共産主義に通じる思想家として再評価されるようになりました。

思想

昌益の思想の中心には、「自然の世」という理想社会の概念があります。彼は、現実の社会を「法世」と捉え、身分制度や階級差別を否定し、全ての人が労働に従事する社会を理想としました。特に、農作業を重視し、自ら耕し、汗を流して働くことを「直耕」と呼び、その重要性を説きました。彼の思想は、封建社会の矛盾を深く認識し、その解決を目指したものであり、農本主義やエコロジー、そしてアナキズムにも通じるものとして評価されています。

『自然真営道』の中で、昌益は江戸幕府が封建体制を維持するために儒教を利用してきたと批判し、孔子や朱子学を徹底的に否定しました。彼は、社会の支配構造を根本から変革しようとする強い意志を持っていました。このような彼の思想は、当時の社会において非常に異端であり、彼の著作は長い間、人々に知られることはありませんでした。

著作と再評価

昌益の主著である『自然真営道』は、全101巻に及ぶ大著であり、彼の思想が詳細に述べられています。しかし、この著作は長い間、埋もれていました。1899年に狩野亨吉によって再発見され、その価値が見出されました。しかし、その大部分は関東大震災で焼失し、現存するのはごく一部に過ぎません。その後、『統道真伝』や刊本『自然真営道』などが発見され、これらの文献をもとに、1983年から1987年にかけて『安藤昌益全集』が刊行されました。

さらに、全集刊行後も新たな資料が発見され、彼の思想や活動に関する理解が深まっています。安藤昌益の思想は、現代においても非常に重要であり、彼の著書は、社会のあり方や人間の生き方について、深く考えさせられる内容となっています。彼の思想は、過去の遺産としてだけでなく、現代社会の課題を考える上で、重要な示唆を与えてくれます。

また、H・ノーマンによる『忘れられた思想家―安藤昌益のこと』が出版されたことで、国際的にも知られるようになりました。彼の思想は、社会主義や共産主義の先駆的なものと評価され、現代社会にも通じる普遍的なテーマを扱っていると言えるでしょう。

まとめ

安藤昌益は、江戸時代中期に生きた医師でありながら、社会の矛盾を鋭く見抜き、独自の思想を展開した人物です。彼の思想は、当時の社会に受け入れられることはありませんでしたが、現代においては、社会変革を求める思想家として高く評価されています。彼の著作は、今なお、私たちに多くの示唆を与え続けており、その思想は、今後も研究され、議論され続けるでしょう。

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