竹久みち

竹久みち：華麗なる人生と「三越事件」の影

竹久みち（たけひさ みち、本名：小島美知子）は、20世紀後半の日本を代表する服飾デザイナーであり、実業家でした。1930年東京に生まれ、旧制共立女子専門学校生活科（現：共立女子大学）卒業後、文化学院デザイン科に進学。在学中から銀座で「ヌーベル・アクセサリー研究所」を開設し、百貨店との取引やテレビ出演などを通して、アクセサリーデザインの世界で頭角を現します。

1960年には、六本木に「竹久みちアクセサリーデザインスクール」（のちに「竹久みちアクセサリー学院」と改称）を設立。国内初のアクセサリーデザイナー養成学校として、多くの才能を育成しました。彼女のデザインは独創的で洗練されており、多くの女性から支持を集めました。その成功は、彼女を時代の寵児へと押し上げました。

転機は、三越の宣伝部長であった岡田茂氏との出会いです。1963年に愛人関係となり、岡田氏が三越社長に就任した1972年以降、竹久氏の会社「オリエント交易」は三越の大口納入業者となりました。莫大な取引手数料を得て、三越社内の人事にも影響力を持つようになり、「三越の女帝」と称されるようになります。この頃の彼女は、華やかな社交界を舞台に活躍し、その名声はますます高まりました。

しかし、この栄華は長くは続きませんでした。1982年、「三越事件」の発覚により、岡田氏とともに逮捕されます。特別背任罪と所得税法違反の容疑で起訴され、最高裁判所まで争った末、1997年に懲役2年6月および罰金6,000万円の実刑判決が確定。服役生活を余儀なくされました。

事件後、彼女はクィーンズオーキッド株式会社を設立し、アートフラワーの販売を続けました。しかし、「三越の女帝」時代の華やかさは失われ、彼女は静かに余生を過ごしました。2008年には動脈瘤を患い、翌2009年7月24日、東京都内の病院で79歳で亡くなりました。

竹久みちの人生は、成功と挫折、栄光と影が複雑に絡み合ったドラマでした。彼女のデザインは日本のアクセサリー業界に大きな影響を与え、その存在感は今もなお語り継がれています。「三越事件」は、彼女の生涯に暗い影を落としましたが、同時に、高度経済成長期における企業と個人の複雑な関係、そして権力の闇を浮き彫りにする象徴的な出来事でした。

彼女の著作『ふりむかない私：「女帝」といわれた私の真実』や『罪名女：もうひとつの「三越事件」』は、彼女自身の言葉で綴られた、波瀾万丈の人生と事件の真相に迫る貴重な記録となっています。これらの書籍は、現代社会においても、多くの示唆を与えてくれるでしょう。

竹久みちは、成功を収めながらも、その栄光の裏に潜む危険性、そして社会の複雑な構造を身をもって体験した女性でした。彼女の人生は、現代社会における成功と挫折、そして権力と個人の関係について深く考えさせる、貴重な教訓を与えてくれます。彼女の生き様は、これからも多くの人々の心に残り続けるでしょう。

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