竹内靖雄

竹内 靖雄（たけうち やすお）

概要

竹内 靖雄（1935年 - 2011年8月23日）は、日本の著名な経済学者であり、経済思想史および経済倫理学を主要な研究分野とした。長年にわたり成蹊大学経済学部で教鞭を執り、同大学の名誉教授の称号を得ている。市場経済の論理と倫理を深く探求し、社会現象や人間行動を経済学の視点から読み解く多くの著作を発表した。

経歴

高知県に生まれた竹内靖雄は、学問の道を志し、東京大学経済学部で経済学を修めた。さらに同大学大学院経済学研究科に進学し、博士課程を修了して経済学博士の学位を取得した。大学院での研鑽を経て、教育・研究者としてのキャリアをスタートさせる。成蹊大学経済学部に奉職し、専任講師、助教授を経て教授に昇任。多くの学生に経済学の知を授けるとともに、自身の専門分野である経済思想史や経済倫理学の研究に情熱を注いだ。

研究と業績

竹内靖雄の学術的貢献は多岐にわたるが、特に市場経済の持つ力学とその背後にある倫理、そして人間社会との関わりに焦点を当てた研究は特筆される。彼の代表的な著作である『正義と嫉妬の経済学』は、その革新的な視点が評価され、第1回山本七平賞を受賞した。また、『市場の経済思想』は、東京海上各務記念財団最優秀図書賞を受賞しており、これらの著作は彼の主要な学問的成果として広く認知されている。

彼の著作活動は非常に活発であり、単著だけでも30冊を超える書籍を世に送り出している。これらの著作では、単に経済理論を解説するだけでなく、市場経済が個人の感情や社会構造にどのような影響を与えるか、あるいはその中で倫理がどのように機能すべきかといった、より人間的で社会的な側面から経済を論じた。また、イソップ寓話や諺、ミステリ、文学作品といった、一見経済学とは縁遠い題材を巧みに取り入れ、人間と経済の関係性をわかりやすく、かつ深く掘り下げたことも彼の著作の大きな特徴である。

市場経済の必要性や論理を説く一方、『経済学とイデオロギー』や『競争はなぜ必要か』といった著作を通じて、市場システムの構造と論理を分析した。また、『日本型市場社会の知恵』、『父性なき国家・日本の活路』、『「日本」の終わり』といった著作では、日本社会特有の構造や行動様式を経済学的な視点から批判的に考察し、日本が進むべき道を提言した。彼の議論は、経済学の枠を超え、社会や文化、人間の心理にまで及んでおり、その多角的な視点は多くの読者に刺激を与えた。

経済倫理学の探求は彼の主要なテーマであり、『経済倫理学のすすめ』をはじめ、イソップ寓話や世界の名作、ミステリを題材にした経済倫理学に関する著作を多数執筆した。これらの著作は、経済活動における人間の「感情」と「勘定」の複雑な関係性を読み解き、倫理的な判断の重要性を説くものであった。

教育活動や研究に加え、共編著や訳書、監修も手がけている。玉野井芳郎の著作集の編纂に関わったほか、C・W・チャーチマンやG・ハーディンの著作の翻訳を通じて、海外の重要な思想や理論を日本に紹介する役割も果たした。

竹内靖雄は、その生涯を通じて、経済学を単なる理論や数式に閉じ込めることなく、広く人間と社会の問題として捉え直し、独自の視点から論考を続けた。彼の著作は、現代社会における経済の役割、倫理の意義、そして人間行動の本質を考える上で、今なお多くの示唆に富んでいる。

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