竹田米吉

竹田米吉（1889-1976）は、日本の近代建築史に名を刻む建築家、実業家、そして優れたエッセイストであった。東京で生まれ育ち、棟梁であった父の影響を受け、幼い頃から建築に囲まれた環境で育った。大工としての基礎をしっかりと身につけた後、築地の工手学校（現在の工学院大学）を卒業。その後、名建築家として知られる横河民輔の下、横河工務所（現横河建築設計事務所）に勤務する。

横河工務所勤務時代には、鐘紡東京工場や王子製紙苫小牧工場といった大規模なプロジェクトに携わり、実践的な建築技術と現場経験を積んだ。この経験は、後の彼の建築家としてのキャリア、そして独自の建築哲学を形成する上で大きな礎となったと言えるだろう。

実務経験を積む傍ら、横河民輔からの経済的援助を受け、早稲田大学建築学科に進学。近代建築の理論と設計手法を体系的に学ぶことで、彼の建築家としての視野は大きく広がった。伝統的な建築技術と近代建築の知識を融合させる独自のスタイルを確立していく端緒となった時期である。

1947年、竹田建設工業を設立。独立して建築家としての道を歩み始める。起業家としての才能も発揮し、数々の建築プロジェクトを成功に導いた。彼の設計した建築物は、日本の近代建築の進化に貢献しただけでなく、その多くが今日まで大切に受け継がれている。

建築家としての活動と並行して、竹田は文筆活動にも精力的に取り組んだ。特に1956年に発表した『職人 一建築家の回想』は高く評価され、日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。この作品では、自身の経験に基づいた建築家としての視点だけでなく、日本の伝統的な職人技や建築文化に対する深い理解と愛情が表現されており、建築という枠を超えた普遍的なテーマを提示している。

『職人 一建築家の回想』は、単なる回想録にとどまらず、建築、職人、そして日本の文化を深く見つめるエッセイとして読者に感動を与え、日本のエッセイ文学に新たな地平を開いた。建築家としての技術と深い洞察力を背景に、日本の伝統と近代の狭間で揺れる時代を生き抜いた一人の建築家の生き様、そして日本の建築文化そのものを映し出す力作である。

また、著書『建築今昔』では、日本の建築の歴史と変遷を自身の経験を織り交ぜながら分かりやすく解説し、建築への関心を高める役割を果たした。これらの著作は、建築を専門とする人々だけでなく、一般の人々にも広く読まれ、建築への理解を深めるのに貢献した。

竹田米吉の生涯は、大工職人から出発し、近代建築家、実業家、そしてエッセイストとして成功を収めた、稀有な存在であった。彼の功績は、建築物という形だけでなく、数々の著作を通して、日本の建築文化と社会に大きな影響を与え続け、後世に大きな遺産を残している。彼の残した建築と文章は、現代においても建築、そして日本の文化を考える上で重要な資料であり続けていると言えるだろう。

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