笑福亭光鶴

上方落語の世界において、「笑福亭光鶴」は特別な意味を持つ名跡の一つです。これは、笑福亭一門において、後に「笑福亭松鶴」という大看板を継承する者が名乗る前名、いわば出世名としての性格を強く持っているためです。実際に、この名を名乗った落語家のうち、二代目は五代目松鶴、四代目は六代目松鶴へと至っています。その他にも、初代は笑福亭梅香に、五代目は五代目笑福亭枝鶴となっています。五代目枝鶴の廃業以降、この名跡は残念ながら現在空席となっています。

この「笑福亭光鶴」という名跡の中で、特に資料にその足跡が記されている人物の一人が、本項で詳しくご紹介する三代目笑福亭光鶴です。本名を池田熊吉といい、1936年1月17日にその生涯を終えました。詳しい享年は伝えられていません。

彼の落語家としてのキャリアは、大正時代初期にあたる1915年か1916年頃に始まったとされています。当初、彼は「新桂派」に属し、桂三路（後の二代目三遊亭圓若）の門下に入り、「三笑」という名で活動していました。その後、彼はいくつかの派閥を移り、反対派、そして三友派などにも籍を置いたようです。このように複数の師のもとで研鑽を積んだ後、1921年になって、彼はついに四代目笑福亭松鶴の門下に移ります。そして、この四代目松鶴のもとで、「三代目笑福亭光鶴」という名跡を襲名することになったのです。

三友派に所属していた時期には、若手噺家たちが集まる「民衆落語研究会」というグループにも積極的に参加していました。これは、当時の演芸界において、新しい表現や若手同士の交流を求める動きがあったことを示しています。

時代の流れとともに、演芸界の勢力図も変化しました。特に吉本興業との関係悪化は、落語家たちに大きな影響を与えます。こうした状況下で、三代目光鶴は、兄弟子にあたる五代目笑福亭松鶴らと共に、1926年に「花月ピクニック」という新たな噺家グループを組織しました。このグループは、当時の若手・中堅のホープたちが集まった集団であり、三代目光鶴もその一員として、舞台で活躍の場を見出しました。

大正時代には、彼の芸はSPレコードという当時の最新メディアにも記録されています。これは、彼の人気や実力が、音源として後世に残るほどのものであったことを物語っています。どのような演目が吹き込まれたのか、全ては明らかではありませんが、彼の得意ネタとしては「せむし茶屋」や「くっしゃみ講釈」などが知られています。これらの演目は、当時の上方落語を代表する噺であり、彼の巧みな話術によって多くの聴衆を魅了したことでしょう。

しかし、晩年の三代目光鶴は、必ずしも順風満帆な日々を送ったわけではありませんでした。大正から昭和初期にかけて、演芸界では漫才が主流となり、落語家の活躍する場が相対的に減少していく時代を迎えます。このような時代の変化の中で、彼は不遇な時期を過ごしたと伝えられています。才能がありながらも、時代の波に乗りきれず、苦労を強いられた落語家の一人だったのかもしれません。

三代目笑福亭光鶴の生涯は、明治末期から昭和初期にかけての上方落語界の変遷と、その中で奮闘した一人の噺家の姿を映し出しています。出世名として知られる「笑福亭光鶴」の名を受け継ぎ、若手として将来を嘱望されながらも、時代の変化に翻弄されたその足跡は、上方落語史の一コマとして記憶されています。現在、この名跡は空席ですが、かつてこの名を名乗った落語家たちの芸と歴史は、今なお語り継がれています。

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