笠原敏郎

笠原敏郎：日本の都市計画を築いた先駆者

笠原敏郎（1882年-1969年）は、日本の都市計画史にその名を刻む重要な人物です。東京帝国大学工科大学建築学科を卒業後、警視庁技師、内務省官僚として活躍し、都市計画法や建築基準法の制定に大きく貢献しました。その生涯と業績を、時代背景を交えながら詳しく見ていきましょう。

警視庁技師から内務省官僚へ

新潟県生まれの笠原は、1907年に東京帝国大学工科大学建築学科を卒業。卒業後は横河工務所、陸軍技師を経て、1915年まで警視庁技師建設課長を務めました。当時の警視庁舎は現在の第一生命ビルの場所にありました。

明治から大正初期にかけて、警視庁には笠原をはじめ、竹内六蔵、伊部貞吉といった優秀な工学士が集結していました。彼らは、近代化が進む都市における建築申請や科学技術導入といった課題に挑みました。

この時代、従来の市区改正行政は限界を迎えており、欧米並みの都市計画の必要性が叫ばれていました。後藤新平内務大臣は都市計画中央委員会を設立し、都市問題への対策を積極的に進めました。1918年、内務省に都市計画課が設置されると、笠原は内務省に転じ、旧都市計画法と市街地建築物法（現在の建築基準法）の立案に携わります。

都市計画の研究と実践

1922年、笠原は内務省都市計画局第二技術課長に就任、早稲田大学非常勤講師として都市計画の講義も担当しました。同時期には、矢橋賢吉と共に石川県庁舎の建設にも関わっています。

内務省では、新たな組織である都市計画課の設立に貢献しました。同僚の内田祥三らと共に欧米の都市計画や建築法規を研究し、その知見を活かして調査研究に尽力しました。特に、ニューヨーク市のビルディングコートやフランクフルト・アムマインの地域制など、各国の建築規制や地域制度について詳細な研究を行いました。

後藤新平の構想に基づき、国会議事堂を中心とした官庁街の総合計画や東京駅八重洲口の再開発計画も推進されました。笠原と内田は、シカゴ大火後の復興計画で用いられた土地の超過収用を参考に、土地建物の評価に関する研究を進めました。

関東大震災復興と国際舞台

1924年から1930年にかけて、笠原は関東大震災後の帝都復興局建築部長を務めました。この間、1928年に工学博士の学位を取得し、1929年には日本大学工学部教授に就任しました。

長年の研究成果は、関東大震災からの帝都復興計画に大きく貢献しました。1930年には、世界都市計画会議の日本代表として出席し、1936年には欧州各国を視察しました。

笠原は、日本の最初の建築法規である市街地建築物法の創案者として知られています。同法の成立を機に、国際住宅並びに都市計画会議への参加を兼ねて欧米を視察しました。

1936年から1943年にかけては満州国営繕需品局長、のち建築局長として活躍しました。1943年に帰国後は日本大学工学部で教鞭をとり、東京都都市計画審議会委員なども歴任しました。1955年には日本都市計画学会会長を務めました。

冷徹な科学者と教育者

笠原は口数が少なく、常に冷静で客観的な態度を保ち、高い倫理観を持った教育者として知られていました。帝都復興事業においても、その誠実さと公平さで高い評価を得ました。派手なことを好まず、地味な仕事に徹する姿勢は、時に誤解されることもありましたが、その堅実な仕事ぶりは、多くの成果を生み出しました。

まとめ

笠原敏郎は、日本の近代都市計画の礎を築いた重要な人物です。法規整備、都市計画の実務、教育活動など、多方面で貢献を果たしました。彼の生涯と業績は、現代の都市計画を考える上で、貴重な教訓と示唆を与えてくれます。彼の功績は、日本の都市計画発展の歴史に深く刻まれています。

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