笠碁

笠碁（かさご）

「笠碁」は、古典落語の演目の一つで、人情噺に分類されます。原話は、元禄4年版の『露がはなし』に収録された「この碁は手みせ禁」という話です。

あらすじ

物語の主な登場人物は、大店の隠居である二人の男です。彼らは大の囲碁好きで、毎日のように互いの家を訪れては碁を打って楽しんでいました。

ある日、二人は「待った」なしで勝負をすることを約束して碁を打ち始めますが、その約束を破って「待った」をしようとしたことから、口論となります。口論は次第にエスカレートし、過去の商売上の出来事や、大掃除の労をねぎらう蕎麦を出さなかったことなど、些細なことまで持ち出して言い争うようになり、ついには喧嘩別れしてしまいます。

しかし、二人は毎日碁を打ち合うほどの碁好きであり、また互いに好敵手でもありました。そのため、喧嘩別れしたものの、暇を持て余してしまいます。しばらくすると、「待った」をした方の男は、相手も同じ気持ちに違いないと考え、通りの軒先から見える場所に碁盤を置いて待ち始めます。

雨の降る午後、彼の予想通り、笠を被った相手の男が現れます。男は内心喜びますが、相手はそのまま素通りしてしまいます。男は落胆しますが、すぐに相手が戻ってきて再び素通りするという行動を繰り返します。実は、相手の男も碁を打ちたいのですが、自分から言い出すのを恥ずかしがっていたのです。一方、待つ男も自分から声をかけることができません。

結局、男は照れ隠しに「やい！へぼ！」と呼びかけます。すると、相手も「へぼって何でエ」などと言いながら男の家に入ってきます。そして、碁盤を挟んで向かい合うと、二人はすぐに仲直りし、早速碁を打ち始めます。しかし、碁盤の上にはポツポツと雨垂れが落ちてきます。二人が顔を上げると、男は相手が笠を被ったままであることに気づき、「お前さん、笠被りっぱなしだ」と言ってオチとなります。

演出の違い

この噺の後半、客が店の前を行ったり来たりする場面の演出は、演者によって異なります。

三代目柳家小さん系の流れを汲む、七代目三笑亭可楽（玉井の可楽）から三代目三遊亭小圓朝に伝わる演出では、家主がキセルを咥えたまま目で客を追うというものです。一方、五代目柳家小さんの燕枝系の演出では、笠を被った客が首を振りながら行ったり来たりします。このような演出の違いも、この噺の面白さの一つです。

主な演者

この噺を演じる主な演者としては、上記の他にも八代目三笑亭可楽、十代目金原亭馬生などが挙げられます。

雨の将棋

五代目古今亭志ん生は、この噺を囲碁ではなく将棋に変更し、題名も『雨の将棋』と改作したものを演じていました。

話の筋はほぼ同じですが、最後に二人が将棋を指す場面で、紛失した王将の駒の代わりに座敷に入り込んできたアブラムシ（ゴキブリ）を使用したり、盤上からいなくなったアブラムシが股の間から出てきて「王様勝てないと思って金の後ろに隠れやがった」とサゲるなど、笑いの要素がより強くなっています。

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