第一次メッセニア戦争

第一次メッセニア戦争：スパルタによるメッセニア征服の始まり

第一次メッセニア戦争は、紀元前743年から紀元前724年にかけて、古代ギリシアのペロポネソス半島で繰り広げられた、メッセニアとスパルタ間の武力衝突です。この戦争は、メッセニアの独立を終わらせ、スパルタの覇権拡大の第一歩となりました。

戦争の背景

戦争の直接的な原因は、パウサニアスの記録によれば、メッセニア人のポリュカレスがスパルタ人のエウアイプノスに騙されたことに端を発します。ポリュカレスは、この不正をスパルタの当局に訴えましたが、無視されたため、激怒して多数のスパルタ人を殺害し、メッセニアへと逃亡しました。スパルタはポリュカレスの引き渡しを要求しましたが、メッセニアの民会は意見が対立し、最終的には引き渡しを拒否する決定を下しました。この決定がスパルタによるメッセニア征服の口実となりました。

また、メッセニア人によるスパルタ王テレクロスの殺害や、スパルタ人女性の拉致といった事件も、両者の緊張を高めた要因として挙げられています。

戦争の経過

当初、スパルタ王アルカメネスによるアンフェイア攻略までは、散発的な小競り合いが続きました。しかし、アンフェイア攻略後もスパルタ軍は他の都市攻略に苦戦し、4年間にわたって成果を上げられませんでした。2度の会戦後、メッセニアで疫病が流行し、戦況はメッセニア側にとって不利に傾きました。メッセニア軍はイトメ山に立てこもりました。

6年後、スパルタはイトメ山攻略のため軍を派遣しましたが、この戦いでメッセニア王エウパエスが戦死。しかし、戦いは痛み分けに終わりました。その後、メッセニア人はデルポイの神託に助けを求め、王家の処女を生贄にすれば勝利できるとの予言を得ます。これを受けて、アリストデモスが自らの娘を生贄に捧げ、その功績によりメッセニア王に選出されました。

アリストデモス王の即位から5年後、スパルタは2人の王が率いる軍勢でイトメ山を攻撃しましたが、紀元前726年のイトメ山の戦いでメッセニア軍に敗北しました。しかし、戦いの英雄であったアリストデモスは、娘の亡霊に悩まされ、最終的に娘の墓前で自殺しました。アリストデモスの死と不吉な予言の的中により、メッセニア軍の士気は大きく低下しました。

一方、スパルタは長期的な包囲戦に戦略を転換し、メッセニア軍は飢餓に苦しめられることになりました。窮地に追い込まれたメッセニア軍は、決死の反撃を試みましたが、スパルタ軍の前に屈しました。最終的に、メッセニア軍は北部から撤退し、戦争はスパルタの勝利で幕を閉じました。

戦争の結果と影響

メッセニアはスパルタに征服され、メッセニア人はヘイロータイと呼ばれる隷属民の身分に落とされました。これにより、スパルタはギリシアのポリスとしては例外的に広大な領土を手に入れることになりました。しかし、この支配は長くは続かず、約40年後の紀元前685年、メッセニア人はスパルタの支配に反旗を翻し、第二次メッセニア戦争へと発展しました。この戦争には、他のポリスも加わり、ペロポネソス半島全体を巻き込む大戦となりました。

また、第一次メッセニア戦争中、2人の王が戦争に専念せざるを得なくなったことから、スパルタでは監督官制度が創設されることとなりました。この制度は、後のスパルタの政治体制に大きな影響を与えることになります。


第一次メッセニア戦争は、スパルタの領土拡大とヘイロータイ制度の確立、そして後の第二次メッセニア戦争の引き金となった重要な戦いです。この戦争を通じて、古代ギリシアにおけるスパルタの地位は大きく向上しました。





参考文献:
パウサニアス著、飯尾都人訳、『ギリシア記』、龍渓書舎、1991年

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