第七書簡

プラトンの『第七書簡』：哲学者の人生と政治への介入

プラトンの『第七書簡』は、『書簡集』に含まれる書簡の一つであり、その分量、歴史的・哲学的記述の豊富さ、そしてプラトン自身の半生を語る内容から、プラトン研究において最も重要な資料の一つと位置づけられています。紀元前352年頃、75歳頃のプラトンが、シケリア島のシュラクサイで亡くなったディオンの後継者たちからの協力を求める要請への返答として書かれたとされています。

ディオンとシュラクサイの政治情勢

書簡は、ディオンの遺志と、シュラクサイの内紛解決には法による統治以外に道はないという忠告から始まります。プラトンは、ディオンとの出会いからシュラクサイでの一連の出来事、そして自身の哲学的見解を織り交ぜながら、彼らに協力を促します。特に、プラトンの三度目のシラクサ訪問に関する詳細な説明は、書簡全体の大きな部分を占めています。

プラトンの回想と哲人王思想

書簡の中心は、プラトンの回想録とも言うべき内容です。若き日のプラトンは、政治への熱意を抱いていましたが、三十人政権への期待と失望、そして民主政への失望を経て、哲人王思想へと至る過程を詳細に語っています。三十人政権には、プラトンの親族も関与しており、ソクラテスの死刑執行にも関わっていたことから、プラトンは政治への理想と現実のギャップに苦悩します。

アテナイにおける政治経験を経て、プラトンは理想国家の実現のためには、哲学者自身が政治を担うか、支配者が哲学に精通する必要があると確信するようになります。この哲人王思想は、後の『理想国』などでも展開される重要な概念です。

シラクサ訪問とディオン

プラトンは、シュラクサイの僭主ディオニュシオス1世の死後、後継者であるディオニュシオス2世を哲学で導き、理想的な統治を実現させようと試みます。最初のシラクサ訪問では、ディオンと出会い、彼の優れた資質を見抜き、哲学の指導者となります。しかし、二回目の訪問では、宮廷内の派閥争いや中傷により、ディオンは追放され、プラトン自身も軟禁状態に置かれます。

その後、ディオンはシュラクサイを解放しますが、再び中傷によって暗殺されます。このディオンの死が、プラトンによるこの書簡執筆の直接的な動機となっています。

第三回シラクサ訪問と哲学論

書簡は、三度目のシラクサ訪問の経緯についても詳細に説明しています。プラトンの哲学への理解を確かめるため、ディオニュシオス2世と議論を交わしますが、その哲学への理解は表面的なものであったと判断します。このエピソードを通して、プラトンは真の哲学の探求方法、その困難さ、そして知識の獲得過程について詳細に論じています。

「在るもの」についての知識を得るためには、「示し言葉」「定義」「模造」「知識」の四段階を経て、最後に「真実在」に到達するという独自の認識論を展開しています。そして、真の哲学は、書物に書き記せるようなものではなく、師弟間の深い交流を通して魂の中で育まれるものだと強調しています。

法による統治の重要性

書簡の結論として、プラトンはシュラクサイの混乱を収拾するためには、法の支配が不可欠であることを改めて強調します。彼は、ディオンの後継者たちに、法を遵守し、賢明で徳の高い人物を顧問として招くよう助言しています。そして、自分自身も法に服する意思のある者たちであれば、協力する用意があると述べています。

まとめ

『第七書簡』は、プラトンの政治思想、哲学思想、そして人生経験が凝縮された重要な文献です。シュラクサイでの出来事を通して、理想と現実の狭間で苦悩する哲学者プラトンの姿が鮮やかに描かれており、現代においても深い洞察を与えてくれる書簡です。その内容から、プラトンの生きた時代や、彼の哲学思想の深淵を理解する上で、必読の書といえるでしょう。

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