三十人政権

アテナイの三十人政権：民主主義崩壊と再生の物語

紀元前404年、ペロポネソス戦争での敗戦により、アテナイはスパルタの強い影響下で新たな政権を迎えました。それが、歴史に「三十人政権」として刻まれた、30人の寡頭政治です。この政権は、アテナイにおける民主主義の終焉と再生を象徴する重要な出来事であり、その成立、展開、そして終焉までを辿ることで、古代アテナイ社会の複雑な様相を理解することができます。

成立と恐怖政治

戦争終結直後、アテナイの一部貴族や富裕層は、敗因を過度な民主主義にあったと主張し、寡頭政治への転換を期待していました。三十人政権はまさに彼らの思惑に応える形で成立しましたが、それは穏やかな政治ではありませんでした。

政権の中核メンバーにはクリティアスのような過激派とテラメネスのような穏健派が混在していましたが、まもなく過激派が主導権を握り、恐怖政治が始まりました。政治的反対派だけでなく、貴族や富裕層さえもが粛清の対象となり、財産は奪われました。穏健派のテラメネスでさえも、最終的には政権内部の抗争の犠牲となりました。この冷酷な支配はアテナイ市民の反発を招き、やがて内戦の火種となりました。

内戦と民主主義の回復

紀元前403年、トラシュブロス率いる民主主義支持勢力が反乱を起こしました。彼らはフュレーの要塞を拠点とし、アカルナイやペイライエウス港のムニキアへと進軍、三十人政権との間で激しい戦闘が展開されました。ペイライエウスの戦いでクリティアスが戦死するなど、三十人政権は劣勢に立たされ、エレウシスへと退却しました。

スパルタはパウサニアス王率いる軍を三十人政権支援のために派遣しましたが、トラシュブロスは非市民であるメトイコイや奴隷にも参加を呼びかけるなど、徹底抗戦を続けました。最終的には、パウサニアス王が調停に入り、アテナイは再び民主政治へと回帰することになります。

和解とその後

内戦終結後、トラシュブロスは報復を防ぐため大赦を実施しました。三十人政権支持者はエレウシスに移住することも許されました。しかし、三十人政権時代の行為をめぐる裁判は多く、社会全体の完全な和解には至りませんでした。また、市民権の付与をめぐっては、当初の寛大な政策が後から修正され、混乱も生じました。

成員と歴史的意義

三十人政権のメンバーはクセノポンの『ギリシア史』などに記録されています。クリティアス、テラメネス、カリクレスなど、著名な人物も含まれていました。三十人政権はわずか一年足らずで崩壊しましたが、アテナイの民主主義の脆弱さと回復力、そして古代社会の政治的複雑さを示す象徴的な出来事として、現代においても研究されています。その後のアテナイ社会は、民主主義を維持しつつも、三十人政権の経験から得られた教訓を心に刻み、より安定した政治体制を模索することになったのです。

参考文献

クセノポン『ギリシア史』
桜井万里子『ソクラテスの隣人たち』
トゥキュディデス『トゥキュディデス　歴史』
リュシアス『弁論集』

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