第二帝政期建築

第二帝政期建築様式：19世紀後半を彩った壮麗な建築

第二帝政期建築様式は、1865年から1880年にかけてヨーロッパ、特にフランスで流行した建築様式です。フランス第二帝政期（1852-1870年）の建築様式を取り入れたことからこの名が付きました。この様式は、17世紀のルネサンス様式を基礎としつつ、それ以前のヨーロッパ建築様式からの様々な要素を巧みに融合させています。特に、バロック様式の二重勾配屋根と低く四角いドームを組み合わせたデザインが顕著な特徴です。

フランスにおける隆盛

フランスでは、ルーブル宮殿への増築をはじめ、シャンゼリゼ通り沿いの多くの建物、エリゼ宮殿、オテル・デュ・パレ、ピカルディー美術館、そしてパリ・オペラ座（パレ・ガルニエ）など、数多くの重要な建築物に第二帝政期建築様式が採用されました。これらの建築物は、その壮麗さと洗練されたデザインで、パリの街並みを大きく変貌させました。 これらの建築を手がけた建築家には、ルイ・ビスコンティ、エクター・レフュール、ジョーゼフ＝ユージェーヌ・ラクロワといった名だたる人物が名を連ねています。

アメリカ合衆国への伝播と発展

第二帝政期建築様式は、大西洋を越えアメリカ合衆国にも広まりました。アメリカでの展開においては、フランスの様式を踏襲しつつ、独自の進化を遂げました。矩形の塔や塔状の要素を組み合わせ、急勾配の二重勾配屋根が特徴的な建物が多く見られます。塔の高さは最上階と同じか、あるいは1、2階分高く設計されることもありました。屋根の稜線には、鉄製の装飾が施され、「クレスティング」と呼ばれていました。このクレスティングは、装飾性だけでなく、避雷針としての機能も果たす場合もありました。建物の外壁には、木材、レンガ、石材が使用され、窓やドア、屋根窓（ドーマー）の周囲には精緻な彫刻が施されることも多く、建築物の威厳を高め、壮大で高価な印象を与えていました。

平面図を見ると、塔を中心とした左右対称の建物や、塔が片側に寄った非対称の建物など、様々なバリエーションが存在します。建築家アルフレッド・B・ミュレットは、この様式をアメリカに広めた中心的な人物であり、彼が設計した建物はヨーロッパのものよりも17世紀の建築様式に近いものが多いとされています。

アメリカでは、この様式は官公庁舎や企業ビル、商業建築などに広く用いられました。また、州の機関ビルや精神病院などにも採用され、オハイオ州コロンバスのオハイオ州立精神病院は、ペンタゴン建設以前はアメリカ最大級の単一屋根建築物でした。

様々な建築家と代表的な建造物

H・H・リチャードソンといった建築家も初期の住宅建築にこの様式を取り入れました。ルランド・M・ロスは第二帝政期様式を「第二帝政バロック」と呼び、ミュレットとスミスはグラント政権期（1869年-1877年）に政府の建物で人気があったことから「第二帝政あるいはグラント将軍様式」と呼んでいます。

アメリカ合衆国では、ボストン市旧市役所、テラスヒル（アイオワ州知事公舎）、ニューヨーク市役所、郵便局、裁判所、フィラデルフィア市役所など、多くの重要な建物が第二帝政期様式で建てられました。他にも、多くの州庁舎や精神病院、商業ビルなど、様々な建物にこの様式が用いられています。

イギリス、カナダ、オーストラリア、アルゼンチン、ベルギー、トルコなど、世界各地でも第二帝政期建築様式は採用され、それぞれの地域に適応した独自の表現が展開されました。

後世への影響

第二帝政期様式はその後、アン女王様式などの様式に人気を譲りましたが、1893年のシカゴ万博などを通じて、アメリカ建築の「リバイバル時代」の礎を築きました。その壮麗なデザインは、現在でも多くの建造物に受け継がれ、19世紀後半の建築史における重要な位置を占めています。

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