第五北川丸沈没事故

第五北川丸沈没事故

第五北川丸沈没事故は、1957年（昭和32年）4月12日に広島県で発生した痛ましい海難事故です。この事故は、老朽化した木造船「第五北川丸」が、定員を大幅に超える乗客を乗せた状態で、暗礁に座礁・転覆したことにより発生しました。事故の背景には、当時の船舶管理体制の不備や、安全意識の欠如といった問題点が浮かび上がっています。

事故の概要

1957年4月12日、穏やかな天候の中、「西の日光」と称される生口島（現在の尾道市）には、多くの観光客が訪れていました。芸備商船が運航する定期客船「第五北川丸」は、この日、生口島の瀬戸田港から尾道港へ向けて出航しました。

「第五北川丸」は、1924年建造の老朽木造船で、総トン数39トン、旅客定員は77名、船員を含めた定員は84名でした。しかし、この日、同船には定員を大幅に超える235名（うち子供12名）もの乗客が乗船していました。さらに、乗員も当初予定の5人から1人減り、船長自らが切符整理を行うなど、人員不足の状態でした。加えて、操舵は当時16歳の甲板員見習いに任せられていました。

出航から約10分後、「第五北川丸」は佐木島の西方約300メートルにある寅丸礁と呼ばれる暗礁に座礁し、転覆・沈没しました。付近を航行していた船が直ちに救助活動を開始しましたが、船内に閉じ込められた乗客が多く、死者・行方不明者は113名、負傷者は49名に及ぶ大惨事となりました。

事故の原因と責任

海難審判では、未熟な甲板員見習に操船を任せた船長の過失が指摘されました。しかし、老朽化した木造船に定員を大幅に超える乗客を乗せた運航会社の責任も問われ、最終的には船長の責任は問われないという判決が下されました。

事故の影響とその後

終戦から12年後のこの大惨事は、社会全体に大きな衝撃を与えました。当時、離島航路整備法に基づく整備助成が十分機能していなかったことや、老朽化した船舶の更新が遅れていたことが、事故の背景にあると指摘されました。事故当時、全国の内航客船のうち、法定耐用年数を超えた老朽船が多数存在しており、その安全対策が急務であることが浮き彫りとなりました。

この事故を教訓に、1959年には「国内旅客船公団法」が公布され、全額政府出資の特殊法人である国内旅客船公団が発足しました。その後、1966年には船舶整備公団へと改組され、航路助成制度の抜本的な改革が行われました。これにより、公団共有船制度が導入され、老朽船の代替新造が急速に進められることとなりました。

その後の経過

事故後、地元住民を中心に慰霊祭が毎年行われてきましたが、慰霊会を執り行っていた住民や遺族の高齢化のため、50回忌にあたる2006年を最後に遺族への参列呼びかけは終了しました。しかし、その後も地元住民により慰霊祭は続けられており、事故から60年目を迎えた2017年の慰霊祭には、約20人が集まりました。

参考文献

広島県警察史編さん委員会編 『広島県警察史 下巻』、784-787頁、広島県警察本部、1972年

外部リンク

国土交通省海難審判所の当該事故の裁決文
* 定員過剰で海の惨事（昭和32年4月17日） - 日本映画新社・朝日ニュース昭和映像ブログ

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