第1狂詩曲 (ドビュッシー)

ドビュッシー：第1狂詩曲、クラリネットとピアノのための《小品》

クロード・ドビュッシー（Claude Debussy, 1862-1918）が作曲した《第1狂詩曲》（Première Rhapsodie）は、クラリネット独奏とピアノ、あるいはクラリネット独奏と管弦楽のために書かれた作品です。「第1」と冠されていながら、後に続く「第2」狂詩曲は存在せず、その意図は明らかになっていません。本項目では、この《第1狂詩曲》と並んで、同時期に作曲されたクラリネットとピアノのための小品、《小品》（Petite Pièce）についても解説します。

作曲の背景

1909年、ドビュッシーは高名な作曲家ガブリエル・フォーレの推薦を受け、パリ音楽院の高等参事会の一員となりました。これにより、彼は卒業試験の審査を務めることになります。音楽院の長年の伝統として、試験課題曲をその時代の著名な作曲家に委嘱するという慣習があり、ドビュッシーはこの役割を担いました。その結果、1910年の卒業試験のために、この《第1狂詩曲》がおそらく《小品》と共に、1909年12月から翌年1月にかけて生み出されました。両作品とも、当時の音楽院クラリネット科教授であったプロスペル・ミマール（Prosper Mimart）に献呈されています。

作品は1910年にデュラン社から出版され、楽譜が入手可能となりました。

初演の経緯

《第1狂詩曲》の最初の演奏機会は、作曲の目的通り、1910年7月に行われたパリ音楽院の卒業試験での演奏でした。これが事実上の私的な初演となります。

公開の場での初演は、ピアノ伴奏版が1911年1月16日、独立音楽協会の演奏会にて行われました。この時の独奏クラリネットを務めたのは、献呈を受けたプロスペル・ミマールでした。

管弦楽伴奏版への編曲は、ピアノ版の公開初演後、1911年の夏に数ヶ月をかけてドビュッシー自身によって行われました。しかし、この管弦楽版の初演はドビュッシーの死後、1919年まで待たなければなりませんでした。

音楽的な特徴

《第1狂詩曲》は、演奏時間約8分という規模ながら、非常に印象深い作品です。ドビュッシーの代表作の一つである《牧神の午後への前奏曲》を思わせるような、夢幻的で抒情的な響きと、同時期に作曲されていた《前奏曲集》の一部に見られるような、機知に富んだ諧謔的な要素が繊細に交錯しています。

クラリネットという楽器が持つ「ロマンティックな甘さ」が、ドビュッシー独自の洗練された音楽語法の中で見事に生かされています。作曲者自身もこの作品を深く愛していたようで、ロシアでの演奏に触れた書簡の中で「私の書いた作品のなかでも最も愛すべきもの」と述べています。

クラリネット奏者にとっては、重要なレパートリーとして今日でも頻繁に演奏されますが、技巧的にも音楽的にも高度な要求を伴うため、演奏は決して容易ではありません。

編成

管弦楽伴奏版の編成は以下の通りです。

独奏クラリネット
フルート 3
オーボエ 2
コーラングレ
クラリネット 2
ファゴット 3
ホルン 4
トランペット 2
トライアングル
シンバル
ハープ 2
弦五部

構成

作品は変ト長調を主調とし、拍子は4/4拍子を基調としながらも、テンポや拍子が頻繁に変化し、自由な形式で進みます。調性も部分的に曖昧さを伴います。

楽曲は、伴奏楽器群によって描かれる、まるで霧がかかったような幻想的な情景から始まります。これに続いて、クラリネットが二つの対照的なモチーフを提示します。一つはF-As-Bという音による三音のモチーフ、もう一つは急速な半音階的なパッセージです。これらのモチーフが全曲を通して様々に変容し、楽曲の核を形成していきます。

作品の中には、主に三つの主題が明確に現れます。

1. 冒頭近く、11小節目でピアノの3連符による伴奏に乗って現れる、息の長い流麗な旋律。
2. 21小節目、ニ長調、ポコ・モッソ（少し速く）で提示される、音域を上下に大きく動く特徴的な旋律。
3. 108小節目、2/4拍子に変化した部分で現れる、軽やかに半音階を下行する旋律。

これらの主題やモチーフが、ドビュッシーならではの繊細で多彩な響きの中で様々な表情を見せながら展開され、クラリネットの表現力と作曲家の豊かな音楽語法が遺憾なく発揮されていきます。

クラリネットとピアノのための《小品》

クラリネットとピアノのための《小品》（Petite Pièce）は、《第1狂詩曲》とほぼ同時期に作曲されたと考えられています。こちらは、主にパリ音楽院の卒業試験における初見演奏の課題曲として用いられました。

この作品も《第1狂詩曲》と同じく1910年に出版されました。

楽曲はト長調からホ短調へと推移し、2/4拍子、テンポ指示は「Modéré et doucement rythmé（中庸に、柔らかくリズムを付けて）」となっています。全体は簡潔な三部形式で構成されています。

演奏時間は約1分半と短く、わずか38小節から成る文字通りの小品ですが、16分音符の符点リズムが全曲を支配しており、短時間の中に独特の性格が凝縮されています。

もう一度検索