第12回東京音楽祭

第12回東京音楽祭は、1983年に開催された通算12回目となる国際的な音楽の祭典です。特にハイライトとなる世界大会は、同年3月27日に東京の日本武道館で行われました。

この年の音楽祭には、前年11月1日から12月17日にかけて世界各国から集められた応募曲の中から厳正なテープ審査を通過した精鋭たちが集結しました。最終的に参加を認められたのは、13ヶ国から寄せられた41曲の中から選ばれた合計15曲。内訳は、海外からの11曲と日本国内からの4組のアーティストたちでした。

大会の司会進行は、タレントの井上順と朝比奈マリアが務め、スムーズな進行をサポートしました。また、スペシャルゲストとして、この大会のために初来日した世界的アーティスト、バリー・マニロウが登場し、会場を大いに沸かせました。

審査員には、服部良一が審査委員長を務め、音楽界からは服部克久、ミュージックラボ社長の岡野弁が参加。さらに、FIDOF名誉会長のアウグスト・アウゲロ（スペイン）をはじめ、各国の音楽産業やエンターテインメント界の要人、さらには俳優のグレゴリー・ペックやバーバラ・カレラ、作曲家のビル・コンティ、ASCAP会長のハル・デイビット、ビルボード誌のウィリアム・ワードローといった著名人が海を越えて来日し、国際色豊かな審査員団を構成しました。

この第12回大会は、グランプリを巡る展開が特に記憶に残るものとなりました。最終審査の結果、ライオネル・リッチーとジョー・コッカー＆ジェニファー・ウォーンズという、いずれも実力派のアーティストが同点の最高得票を獲得したため、史上初のダブルグランプリが誕生しました。本来は一つのトロフィーが贈られるところ、急遽もうひとつ制作されることになり、後日改めて贈呈されました。賞金300万円についても、両者に150万円ずつ折半して贈られています。ライオネル・リッチーは受賞の際に、賞金の一部を日本の若い音楽家たちの育成のために寄付したいと発言しましたが、これは後に慈善団体を通じて実行されました。

大会には多くの印象的なエピソードがありました。かつて第3回大会でグランプリに輝いたルネ・シマールは、今回は妹のナタリーと共にプレゼンターとして舞台に立ち、音楽祭との絆を示しました。参加アーティストの中には、歌手のコニー・スティーブンスのように、前夜祭のレセプションパーティーで自身のヒット曲を、15歳と14歳の娘たちと共に歌唱するという珍しい一幕もありました。

グランプリを受賞したジョー・コッカーは、もし受賞できなかったらハラキリするとジョークを飛ばすほど相当なプレッシャーを感じていたようで、音楽祭終了後は極度に疲労困憊していたと伝えられています。そのため、優勝スピーチはパートナーであるジェニファー・ウォーンズがほぼ一人で行いました。また、この大会で最優秀歌唱賞を受賞したナンシー・ウィルソンは、自身の受賞以上に、同時に作曲賞を受賞した山下達郎の快挙を心から喜んでいたといいます。

日本の音楽シーンにとっても重要な大会でした。杉山清貴&オメガトライブは、この東京音楽祭が実質的なデビューの舞台となりました。彼らは国内大会でゴールデンアップル賞を受賞しましたが、大会の進行が早く、世界大会の公式プログラム冊子の印刷が間に合わなかったため、彼らの紹介ページは一枚ものの差し込みで対応するという異例の措置が取られました。この対応は、翌第13回大会での吉川晃司や清水宏次郎のケースでも同様に見られました。

大会の幕開けを飾ったのは、ハリウッドから参加した美人双子姉妹で学生アイドルのキャンディ＆ランディでした。海外からの参加者では、ハワイ音楽祭の優勝を経て出場権を得た日系アメリカ人のケビンI（ケビン・アイ）が注目されました。彼は1973年に日本で本格的に歌を学んだ経験があり、ハワイでは前年第11回大会グランプリのシャリ・リンからトロフィーを授与されるという縁がありました。また、ホンコン代表のアニタ・ムイは、ホンコン音楽祭代表として参加し、日本人作詞家なかにし礼と香港の作曲家ジョセフ・クーによる日本語のオリジナル曲を歌唱しました。メキシコ代表のエマヌエルの参加曲は、岩崎宏美のヒット曲「聖母たちのララバイ」で知られる木森敏之が作曲・編曲を手がけるなど、各国のアーティストが日本のクリエイターとコラボレーションするケースも見られました。国内参加者では、森進一が歌唱した「冬のリヴィエラ」で前田憲男が編曲賞を受賞しています。

第12回東京音楽祭は、このような多角的な側面を持つ、音楽史において記憶されるべき国際イベントでした。この年の音楽シーンを語る上でも、重要な位置を占める出来事と言えるでしょう。

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