第20回ベルリン国際映画祭

1970年、ベルリン国際映画祭は前代未聞の事態に見舞われました。6月26日から7月7日までの開催期間中、コンペティション部門は、審査員団の辞任により、閉幕2日前に中止。主要な賞は一つとして授与されませんでした。

この騒動の発端は、ミヒャエル・ヘルホーファン監督による西ドイツ映画『o.k.』の上映でした。この作品は、ベトナム戦争中の米兵によるベトナム人女性へのレイプ殺人事件を題材にした反戦映画です。具体的な事件名は伏せられていましたが、1966年11月に発生した192高地虐殺事件を想起させる描写は明らかでした。

6月30日の上映後、アメリカ人監督ジョージ・スティーヴンスを委員長とする審査員団は、作品選出委員会に対し、異議を唱えました。審査員9名による投票を経て、コンペティション作品の見直しを求めたのです。

審査員団の決定は、たちまち様々な反発を招きました。審査員団への批判が殺到し、他の監督たちは作品出品を取り下げる事態に。検閲問題をめぐる論争が激化し、若者たちによる映画館占拠という抗議行動も発生しました。

こうした混乱の中、7月5日、審査員団は辞任を表明。金熊賞を始めとする主要な賞は、選出されないままとなりました。ベルリン国際映画祭の歴史において、受賞作が不在となったのは、この1970年が唯一のケースです。

この前代未聞の事態を受けて、ベルリン国際映画祭は翌年の第21回から、新たな部門「ヤング・フォーラム」（後に「フォーラム」に改称）を設けました。この部門は、実験的な作品や、従来の枠にとらわれない作品の上映を目的としたもので、映画祭の多様性を拡充する試みでした。『o.k.』を巡る騒動は、映画祭そのもののあり方、表現の自由、そして戦争と平和といった普遍的なテーマを改めて問いかける契機となったと言えるでしょう。

1970年のベルリン国際映画祭は、映画史に大きな足跡を残しました。単なる映画祭の中止という以上の意味を持ち、映画制作、検閲、戦争への批判、そして表現の自由といった多岐にわたる問題を浮き彫りにしました。審査員団の構成は、ジョージ・スティーヴンス（アメリカ、監督）を委員長に、西ドイツ、ブラジル、イタリア、ユーゴスラビア、イギリス、フランス、スウェーデンなど、国際色豊かな面々が名を連ねていました。多様な視点が交錯した結果、最終的にはコンペティション部門の中止という、極めて異例な決着を迎えたのです。

この事件は、その後も映画界に影響を与え続けました。1989年には、同じ事件を題材にしたオリバー・ストーン監督の映画『プラトーン』が制作され、世界中で高い評価を受けました。1970年のベルリン国際映画祭の騒動は、映画界における表現の自由、検閲、戦争と平和といった根源的な問題を、改めて問いかける契機となったのです。この出来事は、映画祭の歴史において、決して忘れ去られることのない、重要な出来事として刻まれています。

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