第3次ソウルの戦い

第三次ソウルの戦い：朝鮮戦争における転換点

第三次ソウルの戦いは、1950年 12月31日から1951年 1月7日にかけて、朝鮮戦争中に韓国の首都ソウルとその周辺で行われた戦闘です。この戦いは、中国人民志願軍（以下、人民志願軍）による大規模な攻勢と、それに対する国連軍の撤退という形で展開しました。

背景：中国軍の介入と戦況の転換

1950年後半、人民志願軍が朝鮮戦争に介入したことで戦況は大きく変化しました。国連軍が北朝鮮に侵攻する中、人民志願軍は12月25日に北朝鮮に侵入し、中朝国境付近で国連軍に対して攻勢を開始しました。これにより、清川江の戦いや長津湖の戦いなどで国連軍は敗北し、北朝鮮から撤退を余儀なくされました。

特に朝鮮半島西部では、アメリカ第8軍が清川江で大敗した後、臨津江まで後退し、ソウル付近で防衛線を構築しました。第8軍はソウルを可能な限り保持するよう命じられたものの、国連軍司令官ダグラス・マッカーサーは、状況が悪化した場合には釜山橋頭堡まで撤退する計画も立てていました。12月23日には第8軍司令官ウォルトン・ウォーカーが交通事故で死亡し、後任にマシュー・リッジウェイが任命されました。

一方、国連ではアメリカと中国の対立が激化しないよう、12月11日に38度線沿いの停戦が提案されましたが、中国はこれを拒否しました。初期の戦いで人民志願軍は大きな損害を被ったものの、国連軍に対する勝利は中国指導部に自信を与え、毛沢東は更なる攻勢を命じました。彼は国連軍の撤退が近いと信じ、人民志願軍に総攻撃を仕掛け、朝鮮半島での勝利を目指しました。

戦いの前兆：地形、天候、軍事戦略

ソウルは漢江によって南北に分断され、38度線からは約56km南に位置しています。この戦いは、朝鮮半島西部の臨津江河口から中央部の春川まで広がる38度線沿いの国連軍防衛線で展開しました。主要な侵攻ルートは、臨津江を渡りソウルへ至る国道33号線や、開城とソウルを結ぶ道路でした。また、春川からソウルへ至る道も重要なルートでした。

当時の朝鮮半島の冬は厳しく、気温は-20℃にまで下がり、臨津江や漢灘江は凍結していました。これにより、中国軍は河川を障害とすることなく攻撃することが可能になりました。

12月22日頃、アメリカ第8軍は38度線付近で戦線を安定させていました。ウォーカーは、第1軍団、第9軍団、韓国軍第3軍団を配置し、ソウルを守ろうとしていました。しかし、韓国軍は経験不足の新兵が多く、戦力としては不十分でした。また、第8軍は初期の敗北によって士気が低下していました。

リッジウェイは、第1軍団と第9軍団に対し、高陽市から議政府市にかけて新たな防衛線（Bridgehead Line）を構築し、万が一の際には漢江を渡河する際の支援を行うように命じました。しかし、人民志願軍もまた、兵站の困難や消耗に苦しんでいました。毛沢東は、韓国軍に大きな損害を与えるため、人民解放軍第13軍に、韓国軍第1、第6歩兵師団、第3軍団を壊滅させるよう命じました。攻勢開始日は、満月で夜襲に適し、祝日で国連軍の警戒が緩むと予想された12月31日に設定されました。

戦闘の経過：攻勢と撤退

1950年 12月31日、人民志願軍は38度線沿いの国連軍防衛線に対して一斉攻撃を開始しました。人民志願軍の第13軍は、韓国軍の第1師団、第2師団、第5師団、第6師団を攻撃し、臨津江、漢灘江、加平、春川で国連軍の防衛線を突破しました。アメリカ第8軍は、人民志願軍の攻勢から防衛線を守るため、1951年1月3日にソウルから撤退しました。

この戦いの結果、人民志願軍はソウルを占領しました。しかし、この侵攻は国連軍の韓国への支援を強化させ、撤退計画は放棄されました。数ヶ月に及ぶ戦闘は人民志願軍を消耗させ、国連軍が戦況の主導権を回復するきっかけとなりました。

戦後の影響：戦略的転換点

第三次ソウルの戦いは、国連軍の士気を大きく低下させましたが、リッジウェイによる第8軍の立て直しにより、国連軍は戦意を取り戻し始めました。マッカーサーは韓国防衛への信頼を回復し、1月17日に国連軍の撤退計画を破棄しました。

一方、国連では当初、中国軍の侵攻に対して加盟国間で意見が分かれていましたが、中国が停戦案を拒否したことでアメリカへの支持が集まり、中国を侵略者と非難する決議が可決されました。しかし、歴史家ベヴィン・アレクサンダーは、中国が停戦案を拒否したことが国際的な威信を損ない、その後の国連加盟やアメリカの台湾支持反対が困難になったと指摘しています。

この戦いの結果、朝鮮戦争は最終的に38度線付近での停戦へと向かいましたが、中国の要求が満たされなかったため、その後も2年間、血なまぐさい戦いが続くことになりました。

人民志願軍は勝利したものの、絶え間ない戦闘による消耗が深刻化していました。韓先楚副司令官は、第三次戦役中に兵站の不足と消耗が深刻であったと報告しました。また、アメリカ空軍による補給路の遮断作戦も人民志願軍の南進を困難にしました。

中国軍は国連軍の反撃能力は低いと見て、2～3ヶ月の休息を取る予定でしたが、リッジウェイ率いる第8軍は1月25日にサンダーボルト作戦を開始し、反撃に転じました。この反撃が、戦局を大きく動かすことになります。

まとめ

第三次ソウルの戦いは、朝鮮戦争における重要な転換点であり、中国人民志願軍による大規模な攻勢と国連軍の戦略的撤退が特徴的な戦いでした。この戦いを経て、国連軍は態勢を立て直し、反撃に転じることとなります。この戦いは、その後の朝鮮戦争の展開に大きな影響を与え、国際的な政治情勢にも変化をもたらしました。