算盤坊主

算盤坊主と算盤小僧：京都の妖怪伝承

京都府亀岡市、かつて船井郡西別院村と呼ばれた地には、夜な夜な算盤をはじく妖怪の言い伝えが残っています。それが「算盤坊主」と「算盤小僧」です。どちらも寺社周辺に現れるとされ、その正体や由来は諸説あります。

算盤坊主：西光寺の悲話

「算盤坊主」は、笑路（現：亀岡市）の西光寺周辺で目撃されると言われています。夜、西光寺の境内に生える榧（かや）の木の下で、坊主の姿をしたものが熱心に算盤をはじくというのです。

この妖怪の正体については、タヌキの仕業とする説もあれば、悲しい過去を持つ人間の霊とする説もあります。後者の説によると、かつて西光寺には計算違いで和尚に叱責された小坊主がおり、その悔しさから榧の木で自害したと言われています。算盤坊主は、その小坊主の霊が成仏できずに彷徨っている姿だと伝えられています。小坊主の未練や後悔が、夜な夜な算盤をはじく姿となって現れるという、哀切な物語です。

算盤小僧：素盞嗚神社の勤勉

一方、「算盤小僧」は、西光寺に隣接する素盞嗚神社で目撃情報があります。こちらは少年の姿をしており、毎晩午前1時頃、境内の大きな木の陰で算盤の稽古に励むと言われています。

この少年の正体に関する興味深い説があります。それは、西光寺の開山である萬安英種という和尚が、幼少の頃、人知れず夜な夜な勉学に励んでいた姿だというものです。幼いながら並々ならぬ努力で学問に励んだ萬安和尚の姿が、人々の記憶の中に妖怪として定着したのかもしれません。彼の勤勉さが、夜な夜な算盤をはじく小僧の姿として語り継がれ、人々に感銘を与え続けているのです。

異なる姿、共通の謎

「算盤坊主」と「算盤小僧」、異なる姿をしているものの、どちらも夜に算盤をはじくという共通点があります。その姿は、人々の心に様々な解釈を与え、様々な憶測や物語を生み出してきました。

タヌキのいたずら、小坊主の霊、偉大なる人物の過去の姿。いずれの説も、それぞれの背景にある人間の感情や歴史、そして、自然と人間の関わりを反映していると言えるでしょう。これらの妖怪伝承は、単なる怪異譚としてだけでなく、当時の社会や人々の生活、そして信仰を理解するための貴重な資料と言えるのではないでしょうか。今もなお、亀岡の地に語り継がれるこれらの物語は、人々の心に深く刻まれ、静かにその存在感を示し続けているのです。

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