箭弓稲荷神社 (東松山市)

箭弓稲荷神社：歴史と信仰の交わる地

埼玉県東松山市に位置する箭弓稲荷神社は、古くから人々の信仰を集めてきた歴史ある神社です。かつては県社として崇敬され、現在は神社本庁の別表神社として、その格式の高さを示しています。時に日本三大稲荷や日本五大稲荷の一つとして数えられることもあり、全国的にも知られた存在感を放っています。

源頼信と平忠常の乱：神社の起源

712年（和銅5年）の創建と伝えられる箭弓稲荷神社。当初は小さな祠でしたが、1030年（長元3年）に大きな転換期を迎えます。下総国の武将、平忠常の乱の際に、源頼信がこの地で一泊。近くの野久稲荷神社に参拝し、太刀と馬を奉納したところ、夜空に白羽の矢のような雲が敵陣へ向かうのを目撃。これを神のお告げと信じた頼信は、勝利を収め、より立派な社殿を建立し、「箭弓稲荷大明神」と称えたと伝えられています。

このエピソードには、別の解釈もあります。1028年（長元元年）に平忠常が謀反を起こし、源頼信が討伐に向かいました。苦戦する頼信が、布陣地近くで発見した古い祠が野久稲荷神社でした。頼信は「野久」を「箭弓（矢弓）」に通じさせ、武門の守護神として崇敬。願掛けを行い、忠常を討伐した後に社殿を再建したとされています。一説には、白狐に乗った神が弓矢を授けたとも伝えられています。

791年（延暦10年）には、坂上田村麻呂が近くの雪見峠で悪竜退治をした際、老人の姿の神から矢を授かったという伝承も残っており、古くからこの地が神聖視されてきたことが伺えます。

天海僧正と福聚寺：中興の祖

中世の兵乱により衰微した神社は、庵主が神前に灯をともすのみの状態に。1617年（元和3年）、天海僧正が駿府から下野国へ神輿（徳川家康と推測される）を護送中に、大雨で当社の庵主の草室に神輿を納めました。すると、弓矢を持った翁が現れ、神使として神社を守護することを告げます。天海僧正は庵を寺に昇格させ、「福聚寺」と命名し、庵主を別当職に任命。神社の再興に大きく貢献しました。

『新編武蔵風土記稿』には、享保年間から神社の威徳が高まり、信仰者が増えたことが記されています。明治の神仏分離により、福聚寺は別当職を離れましたが、現在も東松山市に存在しています。

境内と文化財：見どころ

かつては広大な境内でしたが、現在はホテルや学校などに一部が転用されています。それでも、1715年（正徳5年）建立の本殿、1811年（文化8年）建立の幣殿、1835年（天保6年）建立の拝殿は、国の重要文化財に指定されています。

境内には、7代目市川団十郎が奉納した「穴宮稲荷（団十郎稲荷）」があり、現在も芸事向上を祈願する人々の信仰を集めています。また、東松山市指定文化財の絵馬や、1923年（大正12年）に東武鉄道社長根津嘉一郎から奉納された牡丹園も見どころです。

野球と芸能人の信仰：現代の繋がり

「やきゅう」という社名と縁のあることから、プロ野球選手、特に埼玉西武ライオンズの選手が頻繁に参拝することで知られています。そのため、「バット絵馬」や「ベース絵馬」なども販売されています。

落語家初代林家三平とその子息である9代目林家正蔵も崇敬者として有名です。初代林家三平は、代々伝わる小さな箭弓稲荷神社の神像を肌身離さず持ち歩いていたと伝えられています。

現在も、商売繁盛や勝負運にご利益があるとされ、多くの人々の信仰を集め続ける箭弓稲荷神社。歴史と現代が交錯する、魅力あふれる場所です。

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