籠渡白山社

籠渡白山社とかごどの獅子舞

富山県南砺市の山間部に位置する旧平村、現在の南砺市上梨地区にある籠渡集落。この静かな山里に、地域を見守るように鎮座するのが籠渡白山社（かごどはくさんしゃ）です。この神社は、古くから集落の信仰の中心であり、特に伝承される獅子舞とその際に用いられる木造の獅子頭は、五箇山地域の文化財として非常に貴重な存在となっています。

神社の由緒と変遷

籠渡白山社の創建に関する明確な記録は残されておらず、その起源は定かではありません。江戸時代の記録をたどると、正徳2年（1712年）から寛政8年（1796年）にかけて行われた調査においては、この集落の信仰施設は「観音堂」として記されています。しかし、天保6年（1835年）の調査以降になると、「白山社」という名称で記録されるようになります。このことから、江戸時代後期にかけて、信仰の中心が観音信仰から白山信仰へと移り変わった、あるいは両者が融合・改称された可能性がうかがえます。現在の本殿は、昭和18年（1943年）に建立されたものです。集落では、春には4月30日に春季祭礼、秋には9月30日に秋季祭礼が執り行われ、住民にとって重要な年間行事となっています。

貴重な木造獅子頭とかごどの獅子舞の起源

籠渡集落に伝わる獅子舞は、「かごどの獅子舞」として知られています。この獅子舞の起源は、江戸時代に金沢からこの地へ流刑人として送られてきた一人の工師（職人・技術者）、横井大治良に由来すると伝えられています。横井大治良は流刑の身でありながら、城端町へ買い物を頼むなど集落の住民と親しく交流しました。その交流の中で、彼は住民に獅子舞の「棒おどり」や「なぎなた踊り」といった技を教えたとされています。

横井大治良が集落にもたらした影響は、獅子舞だけにとどまりませんでした。文字の読み書きを教えたり、お盆の時期に飾る「キリコ」（切籠灯籠）、墓参りの際に用いる「アンドン」（行灯）の制作方法を伝えたりするなど、多岐にわたります。これらの風習は現在も籠渡集落に残り、横井大治良が地域文化の形成に深く関わったことを物語っています。

獅子舞に不可欠な獅子頭は、横井大治良の指示を受け、中江村に住む庄左衛門という人物が彫刻したとされています。この獅子頭が現在まで大切に伝えられ、南砺市の指定文化財としてその価値が認められています。

この獅子頭は、高さ29センチメートル、長さ40センチメートル、重量6.5キログラムという比較的コンパクトなサイズです。角の部分は13センチメートル、幅は36〜38センチメートルの範囲に収まります。外見上の大きな特徴は、全面に施された漆塗りや金箔塗りです。特に眼の部分には白漆が用いられており、これは城端町の小原治五右衛門という塗師による仕事であると考えられています。

獅子頭の貴重さは、その頭部に残された墨書きからも明らかです。箱書きには「安政七歳（1860年） 工師 横井大治良 刀者 中江村 庄左衛門」と記されています。これにより、この獅子頭がいつ、誰によって作られたのかが明確に分かります。五箇山地域に現存する獅子頭の中で、製作年代が判明しているものとしてはこれが最も古く、地域の歴史を紐解く上で非常に重要な資料となっています。

この木造獅子頭は、その歴史的・文化的な価値が評価され、平成元年（1989年）6月10日に当時の平村の有形文化財に指定されました。市町村合併を経て、現在は南砺市の指定文化財として保護されています。

かごどの獅子舞とそれに用いられる古い獅子頭は、流刑人という意外な人物が地域にもたらした技芸と、それを大切に受け継いできた集落の人々の熱意によって、今日まで伝えられてきました。籠渡白山社は、単なる信仰の場としてだけでなく、このような地域の歴史と文化が息づく貴重な場所と言えるでしょう。

参考文献として、『越中五箇山平村史 上巻・下巻』や『富山縣神社誌』などが、籠渡白山社とかごどの獅子舞に関する詳細な情報を記録しています。

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