米英戦争の原因

米英戦争の原因

米英戦争は、1812年から1815年にかけてアメリカ合衆国とイギリスの間で戦われた戦争です。この戦争は、1812年6月、ジェームズ・マディソン大統領の強い声明を受け、アメリカ合衆国議会が対英宣戦布告を可決したことで始まりました。この戦争の背景には、複数の要因が複雑に絡み合っていました。

イギリスの目標

当時のイギリスは、ナポレオン戦争の最中であり、フランスとの戦いに全力を注いでいました。そのため、中立国であるアメリカがフランスを支援する行為は許容できませんでした。イギリスはアメリカとの戦争を避けたいと考えていましたが、フランスとの戦争を妨げるような行為は容認できなかったのです。また、イギリス国内では、海軍力の優位性をアメリカが脅かすと考える勢力が強く、アメリカに対する強硬な姿勢を支持していました。

イギリスには二つの主要な目標がありました。一つは、ナポレオンとの戦争を遂行するための船員確保であり、そのためには船員の強制徴募が必要でした。もう一つは、フランスとの商業戦争であり、アメリカの商船に対する制限もその一環でした。アメリカとの貿易問題に関してはイギリス国内でも意見が分かれていましたが、当時のイギリスでは中立国の貿易に制限を課すことが一般的でした。特に1807年以降は、ナポレオンを倒すためだけでなく、アメリカの商業的繁栄に対する嫉妬もその背景にありました。イギリスの政治は、フランス打倒とイギリスの商業的優位性の維持を誓う勢力に握られており、それがアメリカとの関係を悪化させました。1812年半ばには、アメリカに好意的なホイッグ党が勢力を増しましたが、時すでに遅く、アメリカはすでに宣戦布告していたのです。

イギリスは、自国の政策をアメリカに正確に伝えられていませんでした。ワシントンの外交能力の低さと情報伝達の遅れがその要因でした。また、アメリカが宣戦布告するまで、イギリスは政策を変更したことを知らせることができませんでした。イギリスが強制徴募を停止した後、アメリカが休戦を提案しましたが、イギリスはすでに抱えていた船員が必要だったため、この申し出を拒否しました。

アメリカの拡張主義

かつては、アメリカの拡張主義、特にカナダの土地への欲望が戦争の一因だと考えられていました。しかし、現在では、この考えを支持する専門家はほとんどいません。アメリカの指導者たちは、カナダの征服は容易であり、それによってイギリスを弱体化させることができると信じていました。また、カナダを領有することは、イギリスとの交渉における切り札にもなり得ると考えられていました。辺境の開拓者たちは、土地そのものを求めていたのではなく、イギリスがインディアンを武装させて西部への移住を妨げていると考えていたため、カナダの征服を支持しました。しかし、カナダ征服は戦争の主要な手段であり、開戦の理由そのものではなかったと考えられています。

アッパーカナダ（現在のオンタリオ州）には多くのアメリカからの逃亡者や移民が定住していました。王党派の住民はアメリカへの併合を嫌いましたが、他の入植者は無関心であるように見えました。アメリカの一部の人々は、カナダの植民地が人口も少なくイギリス軍の防御も手薄なため、アッパーカナダの人々がアメリカ軍を解放者として歓迎すると考えていました。トマス・ジェファーソン元大統領は、「今年はカナダを占領し、ケベック近くまで行軍するだろう。次はイギリスをアメリカ大陸から追い出すだけだ。」と示唆していました。

インディアンの領土の侵害

英米が所有権を争った土地は、もともとインディアン部族の領土でした。インディアンたちは、自分たちの領土を奪い合う英米の行動に反発し、自国の防衛のために両国に宣戦布告しました。インディアン部族は、交易の利点などから、イギリスまたはアメリカと同盟を組みました。イロコイ族やショーニー族はイギリスと同盟を組み、アメリカの植民地政府を刺激しました。

アメリカの権利の侵害

イギリスとフランスの間の長期にわたる戦争（1793-1815）は、アメリカの中立的な立場を脅かし、両国との貿易における権利侵害につながりました。アメリカは、イギリスの代理人がカナダでアメリカ領土内に住む敵対的な先住民族に弾薬を供給していることを強く非難しました。

イギリス海軍は人手不足に悩んでおり、アメリカの商船に乗り込み、船員を強制的に徴募していました。この強制徴募はイギリス臣民のみを対象としていましたが、イギリスはアメリカの市民権を十分に理解していませんでした。多くの市民証が偽物であると信じており、約6,000人のアメリカ人がイギリス海軍に強制的に徴用されました。1806年に締結されたモンロー＝ピンクニー条約は、強制徴募を終わらせるものではなかったため、ジェファーソン大統領によって拒否されました。

アメリカの経済的動機

ジェファーソンの通商禁止措置とマディソンの経済政策の失敗は、アメリカを戦争に導く要因となりました。西部と南部の植民地は、経済戦争を支持し、イギリスの海上封鎖の影響を最も強く受けていました。ニューイングランドの商人は、戦時の貿易で利益を得ていましたが、西部と南部の農民は不景気に苦しみ、戦争を求めていました。服従よりも戦争を望む機運が高まっていたのです。

戦争に導いた偶発事件

1807年のチェサピーク＝レパード事件は、両国の関係をさらに悪化させました。イギリスの戦艦HMSレパードがアメリカの戦艦USSチェサピークを砲撃し、アメリカの船員を殺害し、強制徴募されたイギリス人「脱走者」を連れ去りました。この事件はアメリカ国民の怒りを買い、開戦を求める声が高まりました。

また、1806年のナポレオンによる大陸封鎖令と1807年のイギリスによる枢密院令は、国際貿易を不安定化させました。アメリカの船舶は多数捕獲され、アメリカ政府は1807年に通商禁止法を施行しました。しかし、通商禁止法は海外貿易を妨げたため、ニューイングランドでは特に不評でした。その後、通商禁止法は非国交法に置き換えられ、メーコン議案第2号へと変更されました。これは、イギリスかフランスのどちらかがアメリカの船舶に対する干渉を止めれば、他方に対する通商禁止を強化するというものでした。ナポレオンはアメリカに味方するふりをし、アメリカはイギリスへの通商禁止を強化し、宣戦布告へと近づきました。

1811年には、若手の民主共和党員を中心としたタカ派が台頭しました。彼らは、イギリスに対する開戦を主張し、領土拡張よりも国民の不満解消を重視しました。

1812年6月1日、マディソン大統領は議会で演説を行い、イギリスに対する不満を述べました。そして、6月18日にアメリカはイギリスに宣戦布告しました。これは、アメリカが他国に宣戦布告した最初の事例であり、またアメリカ史上最も僅差での宣戦布告投票となりました。39名の連邦党議員は全員が反対票を投じ、この戦争は「マディソン氏の戦争」と批判されました。

まとめ

米英戦争は、イギリスの政策、アメリカの拡張主義、インディアンの土地問題、アメリカの権利侵害、経済的動機、そして偶発的な事件が複雑に絡み合って発生した戦争でした。この戦争は、アメリカの国家としてのアイデンティティを形成する上で重要な役割を果たしました。

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