粘着榴弾

粘着榴弾

粘着榴弾（ねんちゃくりゅうだん）は、戦車砲や無反動砲で使用される砲弾の一種です。
英語ではHESH（High Explosive Squash Head）またはHEP（High Explosive Plastic）と呼ばれます。
弾頭が目標に密着して起爆する様子から「粘着」と名付けられていますが、実際に接着性があるわけではありません。

構造

外見は通常の榴弾とよく似ていますが、先端部分はわずかに丸みを帯びています。
これは、傾斜装甲を持つ第二世代戦車に対する攻撃時に、弾丸の入射角が小さいと弾かれてしまう現象（斜面効果）への対策として、命中率を優先したためです。

弾殻は榴弾よりも薄く、柔らかい金属で作られています。
内部にはC4などのプラスチック爆薬が充填され、弾底には無延期信管が取り付けられています。

作用原理

粘着榴弾は、目標に命中すると、弾頭がつぶれて表面に密着します。
その後、信管が作動して爆薬が起爆し、強烈な衝撃波が発生します。
この衝撃波が装甲材を伝わる際に、ホプキンソン効果と呼ばれる現象が発生し、装甲の裏側が剥離・飛散します。
この剥離した破片（スポール）が、戦車内部の人員や機材に深刻な損傷を与えるのです。
この破壊効果をスポール破壊と呼びます。

榴弾と似た構造を持つため、破片効果も期待できますが、弾殻が薄いため、榴弾ほどの威力はありません。

特徴

直射火器での使用: 目標に直接命中させる必要があるため、戦車砲や無反動砲などの直射火器で使用されます。
第三世代戦車への効果: 複合装甲を採用した第三世代以降の戦車に対しては、スポール破壊の効果が期待できません。
内張り装甲: 単純な防弾鋼板であっても、内部にポリマー製の「内張り装甲」を施すことで、破片の飛散を抑制し、防御することができます。

他の砲弾との比較

装弾筒付翼安定徹甲弾（APFSDS）の登場後も、粘着榴弾は以下のような利点から使用され続けています。

価格: 多目的対戦車榴弾（HEAT-MP）よりも安価で、約1/5程度の価格です。
全天候性: 天候に左右されずに使用できます。
砲身寿命: 初速が遅いため、砲身への負担が少なく、寿命を延ばすことができます。
危害範囲: 榴弾と同様に円形の危害範囲を有します。

実戦での使用例

湾岸戦争では、イギリス軍のチャレンジャー1戦車が、イラク軍のT-55戦車に対し、5,000mの距離から粘着榴弾で攻撃し、撃破した記録があります。

関連項目

砲弾
* 榴弾

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