プラスチック爆薬

プラスチック爆薬：その特性、歴史、そして危険性

プラスチック爆薬は、その名の通り粘土のように柔軟に変形できる混合爆薬です。合成樹脂を意味する一般的な「プラスチック」とは異なり、ここでは「可塑性」を指しています。この可塑性により、様々な形状に成形でき、爆発の制御が容易なため、限定的な破壊に適しています。例えば、壁に円形の穴を開ける、柱を切断するといった精密な爆破作業に用いられます。

その歴史は古く、最初のプラスチック爆薬は1875年にアルフレッド・ノーベルによって発明されたゼリグナイトだとされています。しかし、広く普及したのは第二次世界大戦後からです。戦時中には、アメリカ軍がRDXを主成分としたコンポジションCシリーズ（C-2、C-3など）を開発しました。これらは従来の爆薬よりも感度が低く、可塑性が高かったため、より安全で扱いやすい爆薬として評価されました。中でもC-3は非常に効果的でしたが、寒冷地での脆さが課題となり、改良型として1960年代にC-4が開発されました。

C-4は、RDXを主成分とし、ニトロトルエン、ジニトロトルエン、トリニトロトルエン、テトリル、ニトロセルロース、オクトーゲン、ワックスなどを混合したものです。粘土のような柔軟性があり、配合比を変えることで硬さも調整可能です。青みを帯びたオレンジ色の閃光を放つのが特徴です。

一方、チェコではRDXとペンスリットを使用したセムテックスが同時期に開発されました。現在では、C-4とセムテックスが世界で最も広く普及しているプラスチック爆薬と言えるでしょう。国によって組成や名称は異なり、アメリカではComposition 4、イギリスではDEMEXやROWANEX、フランスではPE4やPLASTITEなど、様々な名称で呼ばれています。

プラスチック爆薬は、工兵部隊による迅速な陣地構築など軍事目的で用いられる一方、近年ではテロ行為にも多用されています。民間では建築物の爆破解体にも利用されますが、その取り扱いには細心の注意が必要です。そのため、多くの国では、プラスチック爆薬の製造、販売、所持について厳格な法規制が設けられています。日本では「可塑性爆薬に含める物質等を定める告示」により、爆発物マーカーの添加が義務付けられ、火薬類取締法では、爆薬の販売や贈与の際に購入者の身元を記録することが義務付けられています。これは、テロ対策や不正使用の防止に繋がる重要な措置です。

プラスチック爆薬の性能は、密度が約1.6g/cm3、爆発速度が約8,092m/sと非常に高いです。しかし、爆薬単体では安定しており、温度変化、引火、振動では爆発しません。火をつけると緩やかに燃焼するだけです。爆発させるには、電気起爆などの特別な手段が必要です。

しかし、プラスチック爆薬は危険な物質でもあります。特にC-4には、爆発物マーカーとして毒性の強いエチレングリコールジニトラートが添加されているため、誤って口にすると中毒症状を起こします。また、C-4の主成分であるRDXにも中枢神経に作用する毒性があり、大量摂取すると危険です。過去には、ベトナム戦争や自衛隊の訓練中に、C-4を誤って摂取し、中毒症状を起こしたり、死亡した事例も報告されています。

プラスチック爆薬は、その高い爆発力と可塑性から様々な用途で利用されてきましたが、その危険性を理解し、適切な取り扱いと厳格な管理体制が不可欠です。法規制の遵守と安全教育の徹底によって、事故や事件の発生を抑制することが重要です。

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