精索静脈瘤

精索静脈瘤（せいさくじょうみゃくりゅう）について

精索静脈瘤（Varicocele）は、男性の睾丸につながる静脈が異常に拡張し、こぶ状になる状態を指します。

発症頻度と症状

この疾患は、一般成人男性のおよそ15%にみられる比較的頻度の高いもので、男性不妊症に悩む方のうち4割以上にも認められます。精索静脈瘤の約98%は体の左側に発生するという特徴があります。

自覚症状としては、陰嚢部の重圧感や不快感、鈍い痛みが現れることがあります。視診や触診では、陰嚢上部にある蔓状静脈叢（つるじょうじょうみゃくそう）と呼ばれる静脈の集まりが、ミミズ腫れのように怒張したり、鬱血したりしているのが確認されます。

精巣機能への影響

精索静脈瘤ができると、血流が悪くなることで腫れが生じ、精索が圧迫されることで睾丸の温度が上昇することが考えられています。精巣は体温よりやや低い温度（通常、約2度低い）で最も効率よく機能するため、温度が上がると精子を作る働きに悪影響が出るとされます。また、血流障害による持続的な低酸素状態も精巣機能に障害を引き起こす要因と考えられています。これらの詳細なメカニズムは完全には明らかになっていませんが、精子を生成する機能や、男性ホルモンを分泌するライディッヒ細胞の機能が低下する可能性があります。この精巣機能の低下は放置すると進行していく傾向がありますが、適切な手術によって精子形成機能だけでなく、ライディッヒ細胞機能も改善する可能性があることが示されています。

原因

精索静脈瘤は、血管に備わる弁の機能不全によって引き起こされることが多いとされています。血管の弁は、血液が心臓に戻る際に逆流を防ぐ役割を担っています。この弁がうまく機能しないと、重力によって血液が逆流し、静脈が拡張してしまいます。

また、右と左で精索静脈が合流する血管や経路が異なることが、左側に発症しやすい理由の一つとして大きく影響しています。

右側の精索静脈は、直接下大静脈に合流します。
一方、左側の精索静脈は、一度腎臓の腎静脈に合流してから下大静脈に至ります。

特に左側で精索静脈瘤が発生しやすい原因として、主に以下の要因が関わっているとされます。

1. 弁機能不全: 精索静脈内の弁の機能が低下し、血液の逆流が生じること。
2. ナットクラッカー現象: 左内精索静脈が合流する左腎静脈が、大動脈と上腸間膜動脈という二つの血管に挟み込まれる状態（クルミ割り器でクルミを割る様子に似ているためナットクラッカー現象と呼ばれる）になり、血液が心臓方向へスムーズに戻れず、うっ滞や逆流が生じること。
3. 合流角度: 左内精索静脈が左腎静脈にほぼ直角に近い角度で合流していること。

検査と診断

精索静脈瘤は比較的容易な検査で見つかることがあります。一般的には、超音波（エコー）を用いて陰嚢内部の状態を確認した上で、医師による触診が行われます。触診によって、静脈の拡張や怒張の程度を確認し、静脈瘤の重症度を3段階に分類することがあります。

診断確定後、多くの場合、精液検査が行われます。これは、精子数や精子の運動量などを調べ、精子に異常がないかを確認するためです。

精索静脈瘤は進行性であることが多いため、発見後はたとえすぐに治療を行わない場合でも、定期的な経過観察が推奨されることがあります。放置すると年々静脈瘤が肥大し、悪化する可能性があるためです。

治療法

精索静脈瘤が発見されたからといって、全ての場合に治療が必要なわけではありません。主に、不妊に悩む方や、陰嚢部に痛みや不快感を伴う場合に治療が検討されます。

治療法としては手術療法が一般的ですが、軽度（グレード1～2）の静脈瘤の場合や、症状によっては、漢方薬（桂枝茯苓丸、桃核承気湯など）やサプリメント（コエンザイムQ10など）の服用が精液の状態を改善させる可能性も指摘されており、選択肢の一つとなることもあります。

手術は、男性不妊の原因の中で外科的に改善が見込める代表的な疾患に対する、最も一般的に行われている手術療法の一つです。精索静脈瘤は陰嚢の病気ですが、手術では陰嚢を直接切開することはほとんどありません。通常は、ヘソの下の腹部やソケイ部（足の付け根）を小さく切開し、拡張した静脈を結紮（しばって血流を止める）する処置が行われます。したがって、精巣自体を直接切開することはありません。

手術法にはいくつかの種類がありますが、かつては高位結紮術が主流でした。近年は、より精密な操作が可能で患者への負担が少ない顕微鏡下低位結紮術が選択される傾向にあります。

手術の効果については、東邦大学病院のデータでは、約70%で精液の状態が改善し、自然妊娠率が24%から53%となるという報告があります。ただし、精子が成熟して精液として体外に出るまでには時間を要するため、手術後の精液所見の改善が確認できるまでには、およそ半年程度の期間が必要となるのが一般的です。

（文責：〇〇）

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