糸割符

糸割符（いとわっぷ）とは

糸割符とは、江戸時代に幕府が実施した生糸の輸入制度です。特に中国産の生糸（白糸）は当時の日本にとって最も重要な輸入品であり、その価格決定権を外国商人が握っていました。この状況を打開するため、幕府は特定の商人集団に生糸の独占的な輸入権と国内での卸売権を与え、価格統制を図りました。

糸割符制度の成立

1604年（慶長9年）、幕府は御用商人である茶屋四郎次郎を中心に、京都、堺、長崎の特定商人に糸割符仲間を組織させました。この仲間は、輸入される生糸の価格を決定し、一括購入する権利を持ち、購入した生糸を各商人に分配しました。この制度は、外国商人が生糸の価格を支配し、利益を独占する状況を打破することを目的としていました。また、当時の日本の国内経済は、朝鮮出兵や関ヶ原の戦いの影響で混乱しており、外国商人側も販売不振に悩んでいました。このような背景から、糸割符制度は幕府と商人双方の利益を調整する手段として機能しました。

制度の拡大と変化

当初、糸割符仲間は京都、堺、長崎の3箇所でしたが、1631年（寛永8年）には江戸と大坂が加わり5箇所となりました。当初はポルトガル商人のみが対象でしたが、1633年（寛永10年）には中国（明から清へ）商人、1635年（寛永12年）にはオランダ商人にも適用されました。さらに、1641年（寛永18年）には貿易港としての地位を失った平戸が、その代償として糸割符に加わり、6箇所となりました。その後、博多などの九州の都市にも生糸が配分されるようになり、これらは従来の5箇所とは別に「分国配分」として扱われました。糸割符に参加できた都市は全て幕府の直轄地であり、後から参加した平戸も、幕府がオランダとの貿易権を奪った代償として糸割符に加わりました。

糸割符制度の終焉

1655年（明暦元年）、中国商人の抵抗（背景には鄭成功の存在があったと言われています）により糸割符仲間は解散し、市法売買へと移行しました。しかし、1685年（貞享2年）には糸割符制度は復活しました。ただし、分国配分は復活せず、幕末まで続きました。しかし、日本国内における生糸の生産が増加し、輸入生糸の重要性が低下したことで、糸割符制度は次第に形骸化しました。この新しい糸割符制度は、国内産生糸の保護と輸入制限の意図も兼ね備えていました。

糸割符宿老について

各地の糸割符仲間には長老がおり、彼らは輸入生糸の買い付けに関する特権を持っていました。これらの長老を「糸割符宿老」と呼びます。

関連事項

糸割符に関連する資料として、「糸割符由緒書」があります。

このように、糸割符制度は江戸時代の貿易と経済において重要な役割を果たしました。幕府による貿易統制の象徴であり、その変遷は当時の社会情勢を反映しています。

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