約束〜日本一のダムが奪うもの〜

『約束〜日本一のダムが奪うもの〜』は、東海テレビが制作し、2007年2月17日に放送されたドキュメンタリー特別番組です。この番組は、岐阜県に建設された日本一の規模を誇る徳山ダムを巡る、ある集落の運命とその住民が直面した厳しい現実を深く掘り下げています。

ダム建設計画と故郷の喪失

徳山ダムは、揖斐川の上流部に位置し、その完成によって旧徳山村の大部分が水没することとなりました。長年にわたる建設計画の末、2006年9月には試験湛水が開始され、静かに水面が上昇するにつれて、かつての集落は文字通り湖底へと沈んでいきました。これにより、歴史ある徳山村は廃村となり、多くの住民が慣れ親しんだ土地を離れることを余儀なくされました。

交わされた「約束」とその変遷

ダム建設に伴い、水没する徳山村と、当時の水資源開発公団（現：水資源機構）の間では、代替地や補償に関する様々な交渉が行われました。その中で、特に重要視されたのが、ダムによって交通網が寸断される地域、特に水没を免れることになった非水没地区の住民のための措置でした。具体的には、孤立を防ぎ、住民の生活を支えるため、全長約100キロメートルにも及ぶ広範囲な道路網を整備するという「約束」が交わされていたとされています。これは、ダム建設という公共事業によって故郷を奪われる人々への、せめてもの補償であり、未来への希望を繋ぐための大切な合意でした。

しかし、時が経ち、徳山村が近隣の自治体と編入合併し、藤橋村（放送当時）の一部となった後、この状況は変化します。行政側は補償内容の見直しを進め、かつて交わされたはずの広大な道路網整備の「約束」は、事実上反故にされることになりました。

「約束」破棄の現実と住民の苦境

道路整備がなされないという決定は、水没を免れた非水没地区で生活を続ける人々にとって、極めて深刻な影響をもたらしました。交通手段が限られ、外部とのアクセスが困難になったことで、これらの地区は物理的にも精神的にも孤立を深めていったのです。生活インフラの維持や緊急時の対応などが困難になる状況に直面し、残された住民は、たとえ水没しなくとも、これ以上この地で暮らし続けることは難しいという現実に直面しました。番組は、こうした状況下で、最終的に故郷からの退去を決断せざるを得なくなった人々に寄り添い、その苦悩と、荷物をまとめ故郷を後にする様子を克明に記録しています。

番組が問いかけるもの

『約束〜日本一のダムが奪うもの〜』は、単にダム建設の是非を問うだけでなく、公共事業における行政と住民との間の「約束」の重み、そしてそれが破られた時に地域社会とそこに暮らす人々に何がもたらされるのかを鋭く問いかけます。番組は、住民への丁寧な密着取材を通じて、「約束」がいかに軽んじられ、それが人々の尊厳や生活基盤をいかに揺るがすのかを浮き彫りにしました。ナレーターには、祖父母や父が旧徳山村の出身である俳優の小西美帆が起用されており、彼女の声を通して、失われた故郷への思いや複雑な感情がより一層視聴者に伝わってきました。

高い評価

このドキュメンタリーは、その社会的なメッセージ性と質の高い取材が評価され、数々の賞を受賞しました。特に、地域の視点から社会問題を深く掘り下げた点が評価され、第27回地方の時代映像祭ではグランプリを獲得しました。また、平成19年日本民間放送連盟賞のテレビ報道番組部門でも優秀賞を受賞するなど、メディア内外で大きな反響を呼びました。

制作スタッフには、ディレクターおよびプロデューサーとして阿武野勝彦氏が名を連ねています。この番組は、一つの巨大な公共事業の陰で忘れられがちな個人の尊厳や、地域社会が抱える問題に光を当てる、東海テレビのドキュメンタリー制作における重要な一本と言えます。

ナレーター：小西美帆
取材：鈴木祐司
題字：山本史鳳
ディレクター：阿武野勝彦
プロデューサー：阿武野勝彦
制作・著作：東海テレビ

この番組は、徳山ダムの建設によって故郷を失った人々の悲しみ、そして交わされたはずの「約束」が果たされなかったことによる新たな苦難を描き出し、公共事業と住民の権利、信頼関係といった普遍的なテーマを私たちに突きつけています。

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